TURN-034 比翼を繋ぎ合わせる感情の名
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「あのね、遊作くん。今更だけど一緒にいてくれてありがとう」
小さな心境変化-葵との間に起こった混乱が落ち着きを見せるきっかけ、何より自分の心の整理がついたのだろう、その夜の綾乃の表情には彼女らしい穏やかさが戻っていた
自分の事で手一杯だった綾乃は遊作の心遣いに漸く報いる…感謝の気持ちを伝える事が出来た。綾乃の話に耳を傾けていた遊作は「そんな事」と言う様に表情を呆けさせる
「ただ寝るスペースを貸しただけで俺は別に何もしてないだろう」
「そんな事ない!遊作くんがいてくれたから、あの時に変な事を考えても実行せずに済んだんだから」
変な事を考えていたという事実を遊作は今、知った。だがそれをあの夜に聞いていたとして何が出来たというのだろうか、心が崩れかけた綾乃に自分は何も出来てはいない
こうして寝るスペースを貸し与えただけ、ただ一緒にいただけ──それでも綾乃は「ありがとう」という言葉を遊作へと返した。結果として立ち直ったのは彼女自身の力なのに
「…椎名」
「ん?」
これは自分で決めていたこと、綾乃ないしクロッシェから自分への『好き』という言葉を3度聞いたのなら彼女の好意を本物だと信じてみようと
その想いを信じて、彼女の前でつけてきた仮面を取り払って正体を明かそう──いつもの遊作のグラスグリーン色の瞳が真剣みを帯びる視界の中、綾乃は背筋を伸ばした
「俺は今からアンタを幻滅させる言葉を告げるかもしれない」
「…うん」
「それでも色々と考えた結果だから、椎名には聞いて欲しい」
「うん。…なぁに?遊作くん」
強力なハッカー集団であるハノイの騎士と対峙した時よりも、ライトニングという新たな脅威に身を賭けると決意した時よりも今の遊作は緊張し、恐怖を抱いている
胸にある言葉はシンプルであるが故に言葉の重さを感じる様で、何よりもこの言葉を告げる事で目の前で小首を傾げる綾乃の顔色が一変してしまうだろう
「アンタが好きだと言っていたプレイメーカーの正体は、俺だ」
どんな強敵の相手をしていても逸らされる事のなかったグラスグリーンの視界が何故か床の継ぎ目を数えている、無意識に目の前の綾乃から視線を逸らしてしまった様だ
言ってしまった、きっと外ならぬ綾乃には隠し通していた方が彼女に、そして何よりも遊作にとっても幸福であったのにそれでも遊作は覚悟を持って打ち明けた
ここに来るまでは色々なシミュレートをしてきた。だが相手は人間で、シミュレート通りになる事なんて万が一にもない。真空かと思える程に息苦しい部屋の中、視界の隅で何かが伸びた
「知ってたよ」
視界の隅で動いたのは自分の手に添えられた綾乃の薄い手だったと気付いたのは、遊作がその言葉の意味を理解した数秒後だった
知っていた?何故?自分はちゃんと隠し通していた筈だ、それなのに何故?疑問が表情から滲み出ていたのだろうか、綾乃はゆるりと首を横へ振った、その拍子に長い髪が風もないのに揺れた
「遊作くんはちゃんと隠し通せてたよ。私が気付いたのは学校に編入して、屋上で遊作くんと話してから
ずっと胸に抱いていた何かしらの既視感がそこで確信に変わった…のかな」
「…そう、なのか」
「うん。さっき遊作くんは私に幻滅させる言葉かもしれないと打ち明けてくれたよね
そういう事だから幻滅していたなら、とっくの昔に私は遊作くんの傍から離れてるよ。…これが私の君への答えです」
「…………」
―椎名は俺がプレイメーカーだと理解した上で傍に、いてくれたのか
プレイメーカーの正体が分からないまま、その向こう側を恋しく思う訳でなくて俺だから。…ずっと勘違いしていたのは俺だったという訳か
Playmakerの正体が自分でも否、藤木遊作だからこそ綾乃は遊作へしっかりと向き合ってきた
虚像に恋していた自分へ綾乃はさよならだと別れを下し、現実の遊作をアバターのPlaymaker越しに見つめ、その上で現実と仮想での彼への接し方に区別をつけてきたのだろうか
「遊作くんが言ってくれたなら、私も言わないとフェアじゃないよね
あのね、プレイメーカーさんの時から眼中にないかもしれないけど…貴女に言い寄っていたクロッシェってアバター、あれ…私、です…」
「知っている」
「え」
「椎名と同じ様に、ある期間にアンタがクロッシェじゃないかと疑い、草薙さんにハッキングを頼んだ」
「…………そういうの!そういうのはっ!例え遊作くんが私の好きな人でも!しちゃいけない事だと思いますっ!!!!」
やけにもじもじして言うものだからそれかと言う様に遊作は呆けた、目の前で借りているベッドの枕に顔を埋める姿に呆れという言葉がより深みを増す
──何よりも『好き』という言葉を発する時に本来はそうなるべきではないのだろうか、それを指摘すれば逃げ出しそうな綾乃を見つめながら、遊作は2度目となる綾乃の心へ踏み込む
「それなんだ」
「……今、絶賛落ち込んでるのですが…何でしょう…」
「椎名は俺が好きなのは分かるが、いまいち信頼できない」
「……?!」
―わ、私、いつの間に遊作くんにそんな事…?!
「クロッシェの時は耳が腐る程、言ってるだろう」
「泣いていいですか?」
どうやら綾乃の敬語口調は話を聞くに緊張や羞恥心から来ているものの様だ、ならクロッシェ時のあの口調もそこから来ている可能性が高い
そんな事を枕から起き上がらせた桃色の顔から視線を外すことなく解析を進める遊作、さっきは視線を外してた癖に―彼の価値観の違いに唸りそうになる綾乃へ彼は言葉を進めた
「信頼出来ない、と言うのはアンタが俺に対する好きという感情がどのカテゴリーに値するものなのかが分からないという事でもある
3度、椎名から『好き』という言葉を聞けば、勝手に心や頭が理解するものだと思っていた」
「……」
「アンタの言葉はいつも真っすぐで、裏表がないものばかりだ
だから俺もそんな言葉やアンタの想いにちゃんと向き合いたい。だから…教えてくれ、椎名」
「…そうやって私の想いに目をかけて、素直な感情で出されたらなぁ」
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