TURN-028 遠回りの果ての答え合わせ
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「椎名の父親はちゃんと娘を心配しているという想いを言葉にしてぶつけている
ならアンタも我慢せずに自分の想いを言葉にすればいい、言葉にせずに口を閉ざす事の方がもっと遠ざかる事になるんじゃないのか」
「…いい、のかな」
「確かに素直に自分の感情を口にする事で相手を逆なでする可能性もあるだろう
…家族であるなら、一緒に過ごす中で不満や苦言はあるものだと俺は思う。椎名が伝えたい事もその一つであり、それを積み重ね、更に家族の輪を作り上げるんじゃないか」
その言葉は意外で、そう彼に言わせてしまった罪悪感が綾乃の心を締め付けた
ロスト事件の被害者である遊作から家族の話を今まで聞いた事はない、それにSOLのデータバンクに侵入した時に彼は「人生が途切れた」とも言っていた、遊作がそうなら彼の家族は──?
でも勝手な同情は偽善であって、彼の欲するものでもないだろう。だからきっとここで遊作へと返すべき言葉はこれだと、最初に浮かんだ言葉を綾乃にはそのまま口にした
「ありがとう、遊作くん
もう少し…お父さんの言葉の意味を知る為に、私の言葉も聞いて欲しいから向き合ってみる」
気が付けば、足は昇降口がある階にまで進めていた。普段なら有り得ないが、綾乃と話をする事に夢中になっていた様だ
島に捕まって遅くなったものの、遊作はここからcafé Nagiへ向かう予定で綾乃は家に帰るだろう。昇降口を潜ったら彼女とはお別れだ
「椎名」
「どうしたの?遊作くん」
「もし今、椎名の前にいる人間が”藤木遊作”という存在のバックアップで、”藤木遊作”の偽物であったらどうする?」
ボーマンと名乗る草薙の弟の意識データを奪った決闘者との決闘でPlaymakerとボーマンは藤木遊作の存在を賭けて戦い、結果として遊作は勝利した
そう、そこで終わった筈の問題なのに何故、自分はそれを掘り返して綾乃にぶつけてしまったのだろう。空想上のおとぎ話の様な突飛もない投げかけに綾乃は神妙な表情を浮かべた
「…きっと、っていう憶測の答えでもいいかな」
「ああ」
「私はバックアップか本物の君、どちらかを選べと言われたらきっと…目の前の君を取るよ」
「何故だ?バックアップである俺は椎名と同じ人間かも分からないんだぞ?」
「それはね、私が目の前の遊作くんしか会った事も、交流した事もないからだよ」
確かに、目の前の遊作にしか会った事がない綾乃には突然本物だと名乗る藤木遊作が現れても偽物か本物か判断する材料がないに等しい
至極真っ当で当たり障りのない解答だと思う、けれどまだ遊作には綾乃が自分を選んでくれる理由はそれだけではない様に思えた。現に綾乃は言葉を続けた
「どれだけ「こちらが本物で、そっちが偽物だ」って主張する人が現れても、私は目の前の君しか知らないから、本物か偽物かだなんて確かめようがないもの
だから、私は私と交流してくれた”藤木遊作”を本物だって思うし、好きだって感情を抱かせてくれた君の手を取るよ。…私の場合、私との記憶を所持しているかしないかでしか、判断できないよ」
そこまで言い切ると綾乃は隣に立つ遊作の利き手を自身の両手で掬うと、いつもの様に微笑んだ
「もし遊作くんが不安に思う事があったなら、今の君を知る人達が君は君なんだって証明してくれるよ」
「──────」
綾乃は微笑んだ、夕焼けに溶け込んでしまいそうに頼りない表情の癖に手を握る両手の存在だけは、はっきりとさせて
何て心地の良い距離で居場所なのだろう、戦う事も止めてここにいたいと思える程に優しくて離れがたくなる。そんな感情が渦巻いて、混乱でもしたのか遊作の口端が微かに上がった
「憶測の答えだと前置きしていた癖に、随分と決めつける答えだったな」
「う…そ、それはその…!…ごめんなさい」
「椎名が謝る事でもないだろう、既に証明し終わった事を聞いた俺が悪い」
「その証明は…私の今の言葉で曲がったりしなかった?」
「ああ、アンタのおかげで確立できた
ありがとう、椎名」
そっか、と安堵した様に微笑んで綾乃は遊作の手を握っていた両手を離した
包まれた手から急速に綾乃の温度が離れていく様で、ここでも一欠片の寂しさという名残を遊作の胸に残していった
「…あのね、さっき遊作くんは私の考えている事に深入りしすぎたって言ってたけど、そうやって一歩でも誰かの心に踏み入る事って大事だと思うの
君が踏み入れた一歩で遊作くんの交流の輪も広がるだろうし、その一歩で殻を打ち破るきっかけにだってなるから」
現に今の私がそうだったんだよ、そう再び微笑んでの綾乃の言葉は何度、自分の行動を無償に肯定してくれるのだろう
──ああ、きっとそうやって綾乃に肯定してもらえる事を望んで自分は
「だから、"ありがとう"は私から遊作くんへ贈らせてほしいな」
この自分こそが綾乃が好きでいてくれる”藤木遊作”なのだと遊作は彼女にインプットしたかったのかもしれない、その心を他ならぬ自分という自身に奪われたくなかった
さっきくれたアンサーの中に綾乃が好きだという言葉を忍ばせていた事には気付いていた、あんなにも分かりやすくても、今はまだそれに答える勇気が遊作には足りない
クロッシェの時と今日の綾乃の好意は数えて2回目、なら次があるのなら、3度目の正直と彼女の想いは本物なのだと信じられるかもしれない
空を燃やす夕焼けと同じ様にぐらぐらと胸で煮立たせていく感情に今は蓋をして、遊作は自分から離れていく綾乃に背中を向けた
遠回りの果ての答え合わせ
(一方通行の感情は)
(気付かぬ内に交錯し、交じり合う)