SS-ygo(5)
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喉に溜め込まれたむず痒さを吐き出す様に華月は咳を一つこぼし、朝だというのに暗い空を窓越しに見つめた
昨夜、ラジオでハリケーンが近付いているから天気が悪くなると予報士が言っていたのでこの天気も、そしてこの喉の圧迫感もそのハリケーンが理由なのだろう
―動けない程ではないけど、こんな所を見られたら遊星達に心配かけるよね…
華月にとって大切な家族とも言える彼らはとても優しいから、こんな天気になる事だけでも昨夜大変心配をかけてしまった
シティに来てから病院にも通わせてもらっている身としてはこれ以上心配をかけたくない、今日は極力部屋に籠ってゆっくりしている方が自分や彼らにとってもいいだろうと考えたが──
「でも、おはようくらいは言いたいな…」
それは最低限の礼儀だと礼節を重んじている方だと自分で思う華月は悩んで立ち止まってしまう
暫く立ち止まって考え、コツコツとバイトをして貯金したもので最近買った携帯電話で挨拶をする事を思いつく。礼節としてはどうなのかという疑問は残るが、今日は許して欲しい
「華月」
「遊星…?」
控えめなノック音の後に続く大切なひとの声に華月は自室の扉へ近付く
いつもの癖ですぐに扉を開こうとしたが、もしかしたらこの天気のせいで顔色が悪いかもしれないとレバーハンドルに伸びていた手をそっと下ろした
「中々起きてこないが、何かあったのか?」
「…う、ううん!ちょっと寝坊しただけ、今行こうと思ってたの」
「分かった、なら一緒に行こう」
先程の控えめなノック音といつもより潜まれた声色はどうやら、華月がまだ中で寝ているかもしれないという遊星の気遣いだった様だ
胸に温かさを灯しつつ、下に行く所だったと嘘をついてしまった手前、これは当初の予定から変更を余儀なくされる様だ
顔色が悪くない事を祈りながらそこで待っている遊星の元へ行く前に喉を潤しておこうと華月はテーブルに置いてあったペットボトルの口へ自分の口を付けた
「───っ?!」
「…華月?!」
それを口に含んだ一瞬で口の中いっぱいに弾ける気泡の数々、吐き出せばいいものの勢いよく飲み込んでしまったせいで喉が刺激され、溜め込んでいた咳が一気に外へ溢れた
華月の咳き込む様子に今まで様子を見ていた遊星が扉を叩き壊す勢いで室内へ飛び込んで来る。少女の惨状を見た彼の表情が見る見るうちに険しく、青ざめていった
すぐさまに華月の前で膝を折り、両肩に手を下ろし、「大丈夫か」「病院に」といつもの寡黙っぷりを潜ませ、遊星はただただ華月を案じた
「ゆ、せ…」
「っ、何だ?」
「こ、れ炭酸…むせ、ちゃった、だけ」
「…………」
最後の一つを咳としてこぼし終えた華月の前で遊星が固まった、そしてすぐに長い息を吐露した
「…良かった」
華月を抱きしめて発した言葉には安堵と疲労の色が見え隠れしていて、華月は申し訳なさを感じざるを得なかった
どうしてちゃんとペットボトルの中身なりパッケージを見なかったのか、どうして──こんなにも彼を心配させる面でしか自分は動けないんだろう
「…迷惑かけてごめんね、遊星。びっくりさせたね
でも夜じゃなくて良かった、遊星や皆を起こしちゃう所だった」
「謝らなくていい、謝るな」
「でも」
「大切な子の心配なら幾らだってさせてくれ
迷惑だなんて思わない、…もっと頼ってほしいくらいだ」
今の事で乱れた華月の髪を耳にかけながら、頬を撫でてくれる遊星の手はグローブ越しなのにその微笑と同じくらいにとても優しい
さっきの失態の時だって驚かせて心配をかけたのに怒りもせず、まずは良かったと言ってくれた。言動や行動から感じる遊星から与えられる特別感に華月の胸が再度温かさを灯す
「…咳き込んだり、笑ったり落ち着かないな、華月は」
「ご、ごめんなさい」
「いや、責めた訳じゃないんだ。華月が笑ってくれている方が、俺は嬉しい
…今日一日は俺の目が届く場所に、傍にいてくれ」
今日は、だなんて言うけど毎日一緒にいる様なものなのにと思いながら、手を持って立たせてくれる遊星へ華月は苦笑を向けた
それを笑顔だと勘違いした遊星は引っ張ったままの華月の手に自分の手を絡ませて歩き出す、いつの間にか息苦しさは胸の温かさに緩んでいた