chapter:57 譲れないもの、ひとつ
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「うっ……はあ……はあ……」
薄暗い室内に青年の苦悶に満ちた呼吸が漏れる
痛みに叩き起こされ、ピントが合わない視界に映り込んだ景色は久方に見る室内
「オレの部屋……か?なんで……」
押さえた傷口はどこか熱を持っている様だ、痛みに耐えながらもユーリは寝かされていた上半身を起こした
思い出すのは自分を刺し、これ程までの傷を与えた女性の暗い部分に眠っていた意志
「……これほど恨まれてたとはな、く……」
ふと枕元に一冊の本を見つけ、ベッドに腰掛ける為に体勢を整え、ページを捲った
パラパラと遠巻きに見ていたページの中に自分が良く知る単語を見つけた為、次のページを捲ろうとしていた指が止まる
「ん……満月の子?
……『古代の指導者たちは生得の特殊な力を持っていた、彼らは満月の子と呼ばれた
ザウデは彼らの命と力とで世界を結界で包み込み、星喰みの脅威から救った』」
不意に扉が開かれる音が本に没頭していた意識に割って入る、入口にいたのは予想外の人物
「目が覚めたか」
「デューク……そうか、あんたが助けてくれたのか」
ザウデから海へ落下していた自分が何故下町にいるのか、という疑問はこれで解決された、デュークに助けられたから自分はここにいる
だがユーリの問いかけに明確な答えを返さず、デュークはベッドに立てかけてあった宙の戒典へと歩み、それを自身の手に取り返す
「この剣を海に失う訳にはいかなかったからな」
「まあいいさ、それでも礼を言わせてもらう。ザウデ不落宮は満月の子の命で動いてたのか?」
今読んでいた本の中で見つけた新たな疑問にデュークは静かに頷く、星喰みを招いた原因は人間にあり、満月の子達は人間の指導者であったと
彼らは人間が招いた罪に対して償いをする必要があった、それが世界を覆っていた結界だったという訳だ
「そしてわずかに生き残った満月の子が始祖の隸長と後の世界のあり方を取り決めた、帝国の皇帝家はその末裔だ」
「それが帝国の起こりって訳か、だからザウデの鍵ともなるその剣が皇帝の証になるんだな」
「エアルを用いる限り、星喰みには対抗できない。あれは、エアルから生まれたものなのだから」
「……あんたもあの星喰みを止めるつもりだった。だからエアルクレーネを鎮めて回ってた、違うか?」
その問いかけにデュークは短くそうだ、と自身の行動原理を彼が論じた言葉を肯定する
だが何故彼は帝国やギルドに協力を求めなかったのかという疑問も生まれる、そうすればこうなる前にアレクセイを止める事も出来たかもしれない、と
「私は始祖の隸長に身を寄せた、人間と関わり合うつもりはない。それに人間たちは決してまとまりはしないだろう」
「ならどうしようってんだ?星喰みは古代文明だって手に負えなかったんだろ」
「方法はある」
短く星喰みに対する対抗策がある事を呟いたデュークは踵を返し、部屋を出て行こうとするがその背中をユーリは引き止める
「あんた、人間嫌いみたいだけど、オレたちだって人間だぜ?なんで宙の戒典を貸してくれた?なんで協力してくれたんだよ」
「おまえたちだけが敢えて始祖の隸長と対話を試みた。だから……いや、もはや終わったことだ」
「……なにをするつもりだ?」
「私は世界を、テルカ・リュミレースを守る」
「どういう……うぐっ」
「……陽月の子なら隣にいる」
更に追求しようと起こした体に残る傷口から走る痛みに踞っていた間にデュークは今度こそ部屋を出て行ってしまった
真偽を確かめる事が出来ずに悔しそうに唇を噛み締めていた顔をユーリは壁一枚を隔てた隣室に目を向けた、陽月の子――アルシアが隣にいる
「……隣、か」
何故彼女がここにいるのか、それを知る為にも痛む傷口を押さえながら、重い足取りで隣室へと向かう
開いた扉の先にはベッドの上で暗がりの中でも存在感と輝きを放つ銀色が眠っていた、穏やかに上下する体躯に思わず力んでいた肩から力が抜け、苦笑が溢れる
「今までのことが嘘みたいに気持ち良さそうに寝やがって」
「むにゃ…」
寝息を立てる少女に歩み寄り、彼女の顔を伺い知る為にユーリは膝を折る
力の使い過ぎにより、元々白い肌が更に白く透明に――消えそうな雰囲気に眉を顰めながらもユーリは彼女の顔にかかる髪を払ってやる
――思い出した、自分が刺された瞬間に彼女もその場に居合わせていた、そして…
―っ……?!ユーリッ!!
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