第七十一幕 緑雲の揺り籠は地獄に通ずる
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「あれが我らの望むものだ……!! 奴良リクオ…」
自身の人生の中で到達した神速さえも破られた鬼童丸の表情には、自身の最高傑作が破られた事に対して思う感情が見受けられない。それは何故か、その答えは眼前に浮遊するものに見られた
城の細部を破壊し尽くし、現れたそれこそが彼ら京妖怪の宿願ー鵺。その誕生を何人足りとも邪魔させぬ為に鬼童丸はリクオ達に刃を向けたのだ、時間稼ぎという実を結び、宿願が漸く叶う事に鬼童丸の心は満ち足りていた
ー間に合わなかった…!?
「安倍、晴明…」
「花雪、お前も知ってたのか。鵺が安倍晴明だってこと」
「うん…狂骨って子に聞いて…リクオも知ってたんだね」
「ああ」
「妾は」
まんまと鬼童丸の策略に嵌められ、最後までその胸の内を悟る事ができなかった花雪達の前で鵺誕生の時は訪れた。一人、この事を良き日と受け止める女の声は艶やかに弾んでいた
声の主は鵺と一体化し、一糸纏わぬ姿を堂々と晒す羽衣狐。鵺の母である彼女の語り掛けに一派関係なく、誰もが静聴する。その空間で羽衣狐の声というのは張った水面に落ちた一滴の雫が作り出す波紋の様に遠くまで広がっていく
「この時を、千年――待ったのだ。妖と人の上に立つ…鵺とよばれる、新しき魑魅魍魎の主が…今ここで生まれる
皆の者…この良き日によくぞ妾の下へ集まった」
「な…なに?」
「京都中から――そしてはるばる江戸や遠野から妾たちを祝福しに、全ての妖どもよ…大儀であった」
それぞれの意図があって、この地に集結した事に対して一見賞賛している様に聞こえるが、端正に整われた顔は嘲笑という表情によって歪む。勿論、その表情は花雪達の行動の愚かしさに対してのものだろう
この地下に潜りながらも羽衣狐は分かっていたのだ、誰がどこからやって来て鵺誕生を阻止しようとしているのかを。全てを見透かした上で彼女は強調して遠野や奴良組の名を口にした、何者がうつけなのかを知らしめる為に
花雪達の行動を嘲笑う一方で自分に付き従って来た下僕達への言葉は本物。長年の苦労を労り、宿願を達成した羽衣狐の言葉に京妖怪達が一斉に沸き立った。眼下で沸く下僕の存在を彼らの主は慈しむ
「そうかそうか、祝うてくれるか
くるしうないぞ、かわいいやつらじゃ…」
「な…なんだあの女…?おかしいのか、オレたちが客だとぉ?」
「…あれが羽衣狐」
ーあれが――鵺――!!
《母上…》
ーおお、おお…母上…
主の言葉を静聴する京妖怪達の間をすり抜け、羽衣狐と鵺へ近付こうと疾駆していたリクオと花雪、そして氷麗は鵺に現れた変化に思わず足を止め、大きく見開いた瞳でそれを仰ぎ見た
羽衣狐が一体化する球体が盛り上がり、目・鼻・口、次に現れたのは人の手。過程を経て、やがて変哲のない球体は巨大な赤子へと姿を変える。並の大きさではない赤子の出現に、半壊状態である城が更に追い込まれていく
「う…うそ……」
「なに…これ…」
「ハァ、ハァー。はフェははは生まれるぞ、羽衣狐様バァァンザァァイなぁのじゃあああ」
ー!今の声、どこかで…一体、どこに…
老人として枯れた声の響きに花雪は聞き覚えがあった、だがどこで聞いたかまでは思い出せない
京妖怪の一味なのだから、牢で聞いた事があるものと思ったが違う。それではこうも思い出せないのは不自然だ、もっと遠く、自分が忘れてしまっても可笑しくない昔に――
「かつて――人と共に闇があった。妾たち、闇の毛生は常に人の営みの傍らに存在した…けれど人は美しいままに生きていけない
やがて汚れ、醜悪な本性が心を占める。信じていたもの、愛していたものに何百年も裏切られ、その度に絶望し」
ー妾はいつかこの世を純粋なもので埋めつくしとうなった、それは黒く、どこまでも黒く――
一点のけがれもない、純粋な黒
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