第六十七幕 八千代よ、母よ
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箱の中から引っ張り出された無惨な母の姿を目の当たりにした時、晴明の頭は真っ白に塗りつぶされた。目の前で得意なさまで頼道が何かを語っている様だが、それすらただの雑音としか捉えられない
乱暴に扱う頼道の腕に収まった手負いの狐の体には、無数の矢が突き刺さったままにされている。その姿を見ている内に段々と体の内側から込み上げるものが晴明を支配していく
「うむ!これはお主にたくすぞ、晴明。お主、この肝で見事不老不死の薬を作ってみい!
「む…なんじゃ、その目は?」
「関白 頼道様に無礼であるぞ!! 控えろ、晴明殿」
「?なんじゃこ…れは」
場の雰囲気が乱れ始めたのはその時だ、それに気付かずにいたのは皮肉にも羽衣狐を手にし、意気揚々とする頼道ただ一人。その様子に更に感情を逆撫でされた晴明が取り出したのは一枚の笹の葉
一見、変哲もないその葉が自分の元へ放られるのを警戒もせず、見た事が頼道がこの世で最期に見た光景となる。後の事は全て側近が見た記憶、自分の頭が弾け飛んだ事も知らぬ内に頼道という男は命を奪われていた
「ヒィ…!?」
「せ…晴明殿―――!?」
「何をなさるのじゃ―――――」
「は…母上…起きて下され、目を…あけて下され」
突如として関白である頼道を清明が術でむごたらしく殺害した事によって、その場は混乱に陥る。自分の主はただ狐を捉え、その肝で不老不死の薬を使ってほしいと頼んだだけで何の落ち度もない筈、それが側近の見解だろう
怒りか悲しみかの感情によってその場に崩れ落ちてしまいそうな程、頼りない足取りで辿り着いた母の元。こうして近くで見ると増々、目を背けたくなる状態である羽衣狐は子の呼び掛けに応えた
「う…あいすまぬな…清明」
「母上!!」
「お主をもう産めぬ…愛して…おったぞ…」
陰陽が完全に混じり合った都を永遠のものにする為、永遠の命を欲する事に理解していたからこそ、羽衣狐は今際の時にそう告げたのだろう。晴明に永遠の命を与える事が出来なくなる事を許せと
反魂の術に必要な存在を失ったからではない、自分をこの世で一番愛してくれた母を失った時、晴明の中で全ての価値観が逆転する。薄汚い欲によって思い上がる人間はこの世には必要ないと
そう気付いた瞬間――あの日、芦屋道満が宮廷で暴こうとしていた彼の中にある妖としての本性が明らかとなり、混乱する人々へ牙を向く事となる
「貴様ら」
「ヒ…」
「闘えぬ母を何故討った!?」
「!?」
今、息絶えた羽衣狐には一切の戦う術を持ち合わせていなかった。それなのに人は群れを成して好き勝手に母を蹂躙し、死に至らしめた。自分の欲深さの為に母を利用した事が晴明には一番許せぬ事であった
この事態の中心人物を殺害してもまだ飽きたらない怒りは慌てふためく側近へと向かう、乱心した彼を落ち着かせようとする言葉も今も聞き難い雑音に過ぎず、尚更怒りを増幅させる
「ら…乱心じゃ」
「晴明殿…冷静になれ」
「堕ちろ、人ども。貴様らは…上に立つべきではない…!!」
清々しい青空の元、都の遠方で紅が弾けた
夕焼けよりも尚暗く、禍々しい炎は関白の屋敷とそこに住まう人々を容易く飲み込んだ後も轟々と燃え盛り続ける。まるで炎を焚いた人の収まらぬ怒りを現すかの様に
「人は愚かだ…自らの分もわきまえず、たやすく闇の領分を侵す
放っておけば、どこまでもつけ上がる。これではこの美しい世界もすぐに壊れてしまう」
燃え盛る火に照らし出された男の姿は最早、人とは言えぬ存在へと成り果てていた。今までの姿は人として化けていただけに過ぎない、これが安倍晴明の本性だ
妖である母と人である父の間に生まれた男は人の愚かさと欲深さを目の当たりにした時、中立から完全なる闇―妖の方へと傾いてしまった
「この世にふさわしいのは人と妖、光と闇の共生ではない。闇が光の上に立つ秩序ある世界だ!!
そのためにこの清明は闇の主となる…!! いかなる手を使ってもだ…私は必ずや復活し、母と共に世界を闇で覆う…!!」
ーやがてこの男は、"鵺"と呼ばれるようになった…
「キャッ」
「こ…こりゃあ」
語り部である鬼童丸の話が終わった頃を見計らった様に弐條城が大きく震え出す、この地下で誕生する闇の主の復活に打ち震える妖達の歓喜を表すかの様に
愛する母を失った時、男の理想と目的は一点の汚れなき黒に覆いつくされた。かつて母が言った様に世界を闇で覆い、妖上位の世界を造る為の野望の元、彼は再び生まれようとしている
『…まずいな、出産が始まったんか?』
「鵺…安倍晴明が、生まれる…」
「……どけ!おっさん」
「断る。改めて聞こう…百鬼を率いてどうする?私怨以上の大義があるのか!?貴様も妖なら、真の妖の主「鵺」の復活を共に言祝ぐべきだ…
そして我ら、京妖怪の下僕となり、理想世界の建設にその身をささげるのだ。したがわぬのならば…ここで死ね!」
八千代よ、母よ
(闇に呑まれし輪廻)
(誕生まで後数刻)
乱暴に扱う頼道の腕に収まった手負いの狐の体には、無数の矢が突き刺さったままにされている。その姿を見ている内に段々と体の内側から込み上げるものが晴明を支配していく
「うむ!これはお主にたくすぞ、晴明。お主、この肝で見事不老不死の薬を作ってみい!
「む…なんじゃ、その目は?」
「関白 頼道様に無礼であるぞ!! 控えろ、晴明殿」
「?なんじゃこ…れは」
場の雰囲気が乱れ始めたのはその時だ、それに気付かずにいたのは皮肉にも羽衣狐を手にし、意気揚々とする頼道ただ一人。その様子に更に感情を逆撫でされた晴明が取り出したのは一枚の笹の葉
一見、変哲もないその葉が自分の元へ放られるのを警戒もせず、見た事が頼道がこの世で最期に見た光景となる。後の事は全て側近が見た記憶、自分の頭が弾け飛んだ事も知らぬ内に頼道という男は命を奪われていた
「ヒィ…!?」
「せ…晴明殿―――!?」
「何をなさるのじゃ―――――」
「は…母上…起きて下され、目を…あけて下され」
突如として関白である頼道を清明が術でむごたらしく殺害した事によって、その場は混乱に陥る。自分の主はただ狐を捉え、その肝で不老不死の薬を使ってほしいと頼んだだけで何の落ち度もない筈、それが側近の見解だろう
怒りか悲しみかの感情によってその場に崩れ落ちてしまいそうな程、頼りない足取りで辿り着いた母の元。こうして近くで見ると増々、目を背けたくなる状態である羽衣狐は子の呼び掛けに応えた
「う…あいすまぬな…清明」
「母上!!」
「お主をもう産めぬ…愛して…おったぞ…」
陰陽が完全に混じり合った都を永遠のものにする為、永遠の命を欲する事に理解していたからこそ、羽衣狐は今際の時にそう告げたのだろう。晴明に永遠の命を与える事が出来なくなる事を許せと
反魂の術に必要な存在を失ったからではない、自分をこの世で一番愛してくれた母を失った時、晴明の中で全ての価値観が逆転する。薄汚い欲によって思い上がる人間はこの世には必要ないと
そう気付いた瞬間――あの日、芦屋道満が宮廷で暴こうとしていた彼の中にある妖としての本性が明らかとなり、混乱する人々へ牙を向く事となる
「貴様ら」
「ヒ…」
「闘えぬ母を何故討った!?」
「!?」
今、息絶えた羽衣狐には一切の戦う術を持ち合わせていなかった。それなのに人は群れを成して好き勝手に母を蹂躙し、死に至らしめた。自分の欲深さの為に母を利用した事が晴明には一番許せぬ事であった
この事態の中心人物を殺害してもまだ飽きたらない怒りは慌てふためく側近へと向かう、乱心した彼を落ち着かせようとする言葉も今も聞き難い雑音に過ぎず、尚更怒りを増幅させる
「ら…乱心じゃ」
「晴明殿…冷静になれ」
「堕ちろ、人ども。貴様らは…上に立つべきではない…!!」
清々しい青空の元、都の遠方で紅が弾けた
夕焼けよりも尚暗く、禍々しい炎は関白の屋敷とそこに住まう人々を容易く飲み込んだ後も轟々と燃え盛り続ける。まるで炎を焚いた人の収まらぬ怒りを現すかの様に
「人は愚かだ…自らの分もわきまえず、たやすく闇の領分を侵す
放っておけば、どこまでもつけ上がる。これではこの美しい世界もすぐに壊れてしまう」
燃え盛る火に照らし出された男の姿は最早、人とは言えぬ存在へと成り果てていた。今までの姿は人として化けていただけに過ぎない、これが安倍晴明の本性だ
妖である母と人である父の間に生まれた男は人の愚かさと欲深さを目の当たりにした時、中立から完全なる闇―妖の方へと傾いてしまった
「この世にふさわしいのは人と妖、光と闇の共生ではない。闇が光の上に立つ秩序ある世界だ!!
そのためにこの清明は闇の主となる…!! いかなる手を使ってもだ…私は必ずや復活し、母と共に世界を闇で覆う…!!」
ーやがてこの男は、"鵺"と呼ばれるようになった…
「キャッ」
「こ…こりゃあ」
語り部である鬼童丸の話が終わった頃を見計らった様に弐條城が大きく震え出す、この地下で誕生する闇の主の復活に打ち震える妖達の歓喜を表すかの様に
愛する母を失った時、男の理想と目的は一点の汚れなき黒に覆いつくされた。かつて母が言った様に世界を闇で覆い、妖上位の世界を造る為の野望の元、彼は再び生まれようとしている
『…まずいな、出産が始まったんか?』
「鵺…安倍晴明が、生まれる…」
「……どけ!おっさん」
「断る。改めて聞こう…百鬼を率いてどうする?私怨以上の大義があるのか!?貴様も妖なら、真の妖の主「鵺」の復活を共に言祝ぐべきだ…
そして我ら、京妖怪の下僕となり、理想世界の建設にその身をささげるのだ。したがわぬのならば…ここで死ね!」
八千代よ、母よ
(闇に呑まれし輪廻)
(誕生まで後数刻)