第五十七幕 薄様は雪溶け水に浮かぶ
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「勝手にさわんな、こいつは"エサ"なんだよ」
「つ…土蜘蛛……!」
ー私…とらえられたの?
ここに拉致されて、一体どれ程の時間が経ったのか。土蜘蛛の奇襲を受けて、この夜に初めて目を覚ました氷麗は漸く自分の置かれた立場というものを把握した。恐ろしい敵に捕らえられたという現実は血が凍る程の事実であった
けれど、氷麗を捕らえた土蜘蛛本人は彼女が目覚めた事に大した興味もなく、外から持ち込んだのだろう巨大な酒瓶を一気に煽る。そう、彼にとって大事なのは氷麗というエサに釣られてやってくる輩
「まだかね、ずっと待ってんだがねえ
ああゆう"面白ぇ奴"に出会いてぇんだ、今度こそ完璧に破壊してやる……」
ーえ?
「リクオ様……?生きて……いるの?」
守れなかった、と思っていた人が生きている。そんな嘘みたいな言葉でも僅かな可能性があるのなら、氷麗は縋りたかった。その方が死んだと思うよりも遥かに心は傷付かずに済む
誰に語るでない土蜘蛛の呟きに嬉しさと動揺がぶつかり合い、体が震えた。今まで死んでいたかの様に静かだった血流が途端に息を吹き返していく
「リクオ様が…」
ー生きてる
「来るの……?」
ーまだ…守れる、花雪様もきっと…
「……そのためのエサだ、おとなしくしてろ」
「私が…エサ?」
蜘蛛の子を散らした時にも言っていた、氷麗はエサなのだと。先程はその巨体の出現と自分が食べられてしまうかも、という危機に聞き流していたが何のエサだというのか
――決まっている。リクオにとってのエサとして、土蜘蛛は自分を利用しようとしているのだと早々に気がついた
ー花雪様ならまだしも、私を使って…リクオ様をおびき出そうとしてるの?
…来るの?リクオ様なら…来てしまうかもしれない…
私のせいで、この土蜘蛛の元へ…?
土蜘蛛とリクオの力の差は伏目稲荷で見た通りだ、あのままのリクオならまた土蜘蛛の手によって返り討ちにされるのが関の山だ
折角生き延びたというのに、自分のせいでもう一度――それはどんなに恐ろしい事だろう
ー…守らなきゃ、側近として…リクオ様を、花雪様を
今度こそ、この男から守らなければいけない。リクオと花雪を――そして一度は破られた誓いを果たさなければ
いつ二人が来るか分からない為に時は一刻を争う、自分の手に作り上げた薙刀を強く握り締めた氷麗は直ぐさまに行動に移した。先程の蜘蛛妖怪に襲われた際に手足が自由になった事が功を奏した
ー来させちゃいけない
そのためにここから…逃げなきゃ
幸いにも土蜘蛛はこちらに興味がないのか、無防備に背を向けて酒を煽っている。女だからと侮られている気がして、苛立がないとは言えない。だがそれによって、行動が移しやすくなったのは事実
こうなれば、後はタイミングを見計らうだけ。土蜘蛛が完全に自分という存在から気を反らす、その瞬間を狙って――
「時間だ…行くぞ」
「おい、待て」
「………」
「何かスッゲェ感じるぞ」
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