第五十六幕 磨き上げし粗玉を纏いゆかん
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ーなんだ…今の"畏"は!!
リクオ、まさか―――お前の畏なのか!!
鞍馬天狗から刺客を差し向けられた事を知り、山道を駈ける牛鬼の眼前を黒羽根が舞う。驚愕によって常時よりも拡張した視界の隅に、次々と天狗達が倒れ込んでくる
今までに感じた事のない畏の波動。そう、この性質はまるで二代目の――
立ち込める白煙の中、その行き着くべき場所にたどり着いた牛鬼はその全貌を目の当たりにする。それは何とも眩く、何事にも動じない筈の牛鬼の感情でさえ動かす
破けた着物から覗く背中はリクオのもので、その背には今までになかった筈の巨大な畏が一段と磨き抜かれた大将としての器が漂い。鋭い眼光に一瞬、声をかける事すら躊躇ってしまう
「…………リクオ、お前…」
「牛鬼
これが、"業"か?」
言葉を遮ってまで、こちらを見る瞳の中に自分が習得したとされる"業"を披露するリクオ
その"業"はこちらを鋭利に貫く眼光と同じ様に閃き、波紋をなぞる畏を一身に注がれた牛鬼の心はざわめき、瞳は一瞬にして奪われていた
「おい。早くしな、お前ら」
「!」
この場の状況が何とも衝撃的過ぎて、忘れがちだったがここにいるのはリクオだけではない。彼の義兄弟として京都から同伴して来た鴆もいるのだ
そもそも修行への同伴を許可したのもリクオが"業"を習得するのに、切っ掛けを与えると見抜いたからだ。そしてその絆は見事、牛鬼の力に頼らずに窮地を脱出させるに至った
「こいつら、解毒が必要だぜ。毒羽根か?どーなってんだよこりゃ」
ーワシは総大将のために力となれた
お前も百鬼夜行のために、翼を広げるのだぞ――
ーこういう…ことかよ、親父…
彼の父がまだ生存の時、幾度となく聞かされて来た武勇伝。その言葉を聞かされる度に思ったのは自分もいつか、百鬼夜行と総大将の為に翼を広げたいという遠い夢
言いつかっていた通りにリクオの為に翼を広げた時、二代目の力となれたと嬉々として語っていた意味を、新しい世代は知る事となったのだった
「そ…そんな…バカな…こんなはずは…なんと鞍馬の精鋭たちが…」
しゃがれた声はいつになく震えていた、この事態を引き起こした鞍馬天狗から呟かれたものだ。その声の震えは自分が思い描いていたものと程遠い状況が、現実となっていたからだろう
自分が送り込んだ天狗達の急襲に倒れたリクオから、祢々切丸を奪い取るという策は間違いなく成功する筈だった。鞍馬の精鋭達に叶う筈がないと牛鬼も思っていた、けれどその考えを覆す様にその刺客達は今や、毒に呻いている
「牛鬼、一体何をやったのだ…?何を…しこんだ?」
「…………お前が知る必要はないことだ、天狗
これは奴良組の"強み"なのだ」
人と妖を守ろうとする奴良組達と人を排除し、妖だけの世界を目指す京妖怪にある深い溝の上では決して理解されないこの"業"。唯一、彼らより秀でた部分。それこそが人の血なのかもしれない
刺客を差し向けられた事でリクオは"業"を結果として手に入れたものの、一歩間違えれば…。やはり本来、相容れない敵である者に深く身内の事を明らかにする理由はないのだ
「リクオ…お前の最初の盃の相手は鴆だ、きっとお前達ならつかむと思っていた」
「…………」
「リクオ、今ならわかるな?お前は仲間を信じ、また信じられることで力を得るのだ
守るものでも守られるものでもない、それが百鬼の主の業へとつながるのだ」
「そうか……オレは今まで何でもかんでも、自分一人でやろうとしてたんだな…」
今にして思えば、自分のやり方は些かやり過ぎだったと悔いる事が出来る。土蜘蛛の時も自分と相手の力の差を分からず、一人で突っ走ってしまった。花雪の制止にも聞こえないふりをして
全ては総大将として百鬼夜行を守ろうとする余りの行動、その思いが強過ぎてリクオは一人で全てを背負おうとしていたのだ。その短所を牛鬼と鴆が気付かせてくれた
自分の非を理解し、受け入れた事によって磨かれたリクオの総大将としての器は朝日に反射し、牛鬼の目に眩く映った。目を細めなければ直視出来ない輝きをリクオなら、牛鬼はずっとそう信じて来た
「牛鬼、すまねぇな。気付かせてくれて」
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