第五十五幕 幄覆いのその向こうに
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「ここは鞍馬山ってぇとこらしいぜ」
黒曜色の不透明さから透明色に磨き始められた空が、そろそろ夜明け前だという事を告げていた
光さえも通さない山中は同じ京都市内だと忘れる程に草深く、その中だけはまだ夜の状態であり続ける。教授する声はひっそりと佇む小屋内から聞こえて来た
「後の源義経…牛若丸が鞍馬天狗に修行してもらった伝説の地だそうだ。「木の根道」なんてたしかにもってこいの場所だよな
…今日も夜が明けちまうな。……今、すげぇ顔してるぜ…リクオ」
他に何も設置されていない小屋の中で火を焚く囲炉裏が存在感を放っていた、けれどそれを囲う鴆とリクオは決して和気藹々という雰囲気には程遠いもので鎮座していた
茶碗に作ったものをよそい、かき込むリクオは饒舌な鴆と真逆に沈黙を貫き通す。そんな彼の顔はいたる場所が腫れ上がっており、鴆の治療でも間に合わない程の傷の多さは牛鬼の修行の凄惨さを物語っていた
「……遠野では"よける"以外に家事もおぼえたんだってな、リクオ
明日も修行ならお前が作れよ、リクオ…」
「……」
腕に限らず、指にまで包帯を巻かれた利き手を不便そうに動かしながら、リクオはその脳裏に今日の修行を思い返していた。修行を初めて早数日、朝からの開始故に彼は人間の姿で修行に当たっていた
山道を這う樹の根に足を掬われつつ、木陰から次々と現れる妖をかいくぐりながらリクオは走り続ける。人としての彼に本気で殺しにかかる幻、それらをどうにかする術はない
その時、時刻は丁度暮夜。逃げ惑う目の前の標的に妖がその体を狙うも、それは雲を掴んだかの様な軽やかさで鋭利な爪の間からすり抜けた
「!!」
知らず内に放たれた畏に飲まれた妖はその隙を、討たれた
暮夜に差し掛かった為に変化した夜の姿で放った畏によって、窮地を紙一重で防いだといった所か
「ぬらりひょんの畏…認識をずらし、敵の畏を断つ…だがそのままでは土蜘蛛は倒せない
"夜"の姿になったか。では次の段階だ」
「………」
「手に入れるのだろう、大きな敵に届く刃を
時間はないぞ、そのことだけを考えろ!!」
人の姿の際は見守りに徹していた牛鬼、彼はリクオが妖の姿へ変化したのを確認し暗がりから現れる。人の姿で行う修行はここまで、妖になったからと切り上げる程に牛鬼の指導は甘くない
夜には牛鬼との手合わせに体を痛めつけられ、鴆がいる小屋に戻って来たリクオは今日も"業"を見出せず。牛鬼が言った様に修行を終えた今も、自身が目指すべきものを渇望する
「土蜘蛛に届く刃…"オレのどこ"にある?それがなけりゃ、何もできねぇ」
「……そればっかりだぜ、さっきから
…まぁ今は休めや!日が登りゃ、今度は昼の姿でやんだろ?」
こっちの話を左から右へ、なリクオの様子と彼をこんな状況に追い込んだ牛鬼の手加減のなさには思わず鴆も苦笑。これでは休憩と分からない程ののめり込み様だ
日が昇るまでは休憩時間――その認識に水を指すかの様に外から黒羽根が舞い込む、その黒さは外の夜を吸い込んだかの様で。それは枚数を重ね、部屋中を黒い旋風が暴れ狂う
「「!!」」
「なにっ……」
室内に起こった小規模な嵐の発生源は、天狗の群れ。彼らは予期せぬ来客に驚くリクオと鴆を取り囲んだ、注がれる圧迫感が殺気とも感じられる程の鋭利さである
……この状況は色々と可笑しい。今までの修行は牛鬼が直接指導に当たっていたし、この時間帯からの修行は今までにない例だ
「……!?おいおい。修行再開にゃ早すぎんだろーが、牛鬼ィ」
「…………鴆!こっちだ!!」
「!!」
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