第五十三幕 研ぎ澄ますべくは盈虧
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「牛鬼の言ってた「業」って何のことだろう?妖怪にできることは「鬼發」と「鬼憑」だけかと思ってたんだけど」
「…うちの一族は代々てめーの親父についてってたからよ。出入りのたんびに武勇伝を聞かされてた
ワシら弱い妖怪でも"力になれた"、毒の翼を広げた
…ってな。そいつは比喩でもなんでもねーのかもしれねぇ」
ー…百鬼夜行の強さがボクに還ってくるって牛鬼は言ってた
ボクの畏が強くなれば―――「業」になるんだろうか
「リクオ、見ろ」
自身の畏を強くする、だがどうやって――その方法を見出そうと没頭するリクオは呼び掛けに引かれ、そしてその先で目を奪われた
振り返った先にいるのは彼に呼び掛けた人物、すなわち鴆だ。その彼の背中からは美しい色彩を帯びた翼を広げていた、薄い羽根の一枚一枚はまるで花弁の様に透き通っている
「さわんなよ、キレイだろーが毒ハネだ
こいつは鴆という妖怪の能力だ、オレの畏って言ってもいいかもしれねぇ
オレも翼を広げてぇ
お前のために戦ってみてぇんだ。お、そうだ。今リクオの百鬼夜行はオレだけよ
だからオレがリクオの力になりゃーそれでわけわからん牛鬼の言ってることは成立すんじゃねーの?」
「鴆くん…ありがとう」
ーはげましてくれてる、心配してくれてんだ
でも、すごい力になる
奴良組の二代目に追従した自分の父親と同じ様に、今度は自分がリクオの為に翼を広げたい、――力になりたいと鴆は強い信頼の元にそう告げた
百鬼夜行と離れている今、力になれるのは自分だけ。だから彼らの分まで自分がリクオの力になる、今なら分かる。牛鬼の言う固い絆で結ばれた相手から"還ってくる大きな力"というものが
ー信じてくれる人がいるだけで、こんなに力になる
鴆だけではない、ここに来るまでの間にもこんなにも弱い自分を支えてくれる人達はいた。その代表が、どんな事があってもリクオを信じ切ろうとした花雪と氷麗だった
自分に力がなかったばかりにと嘆くのはもう止めだ。彼女達を助け出し、もう一度その信頼に応える為にも剣を磨かなくては。弱音を体内から弾き出す様にリクオは自分の両頬を叩いた
ーそれが百鬼夜行なら―――
そうだ、ボクはみんなのためにも力を手に入れたい
「お、そーだ。お前、これ忘れてってたぜ」
「これ…」
そう言って手渡されたのは花雪の武器であり、彼女の母が彼女の為に遺した月夜見家の秘宝――月鳴
あの混乱の最中で落としてしまったものを鴆が拾っておいてくれたらしい、花雪と自分を結びつけるただ一つの羽衣。これを見ているだけで土蜘蛛の前に破れた彼女の姿を思い出し、胸が締め付けられる様だ
けれど、
「……これ、ボクが「業」を手にするまでは鴆くんが預かってて」
「あん?何でだよ」
「何か…花雪を血で汚すみたいで嫌なんだ」
「お前、相当だな…」
けれど、リクオは敢えて月鳴を自分の手元に置かずに鴆に預けた。彼に言った通り、自分が持っていて汚しては花雪に申し訳なく、何より自分が嫌だったから
朝日が山の向こう側から溢れ出す頃、牛鬼は壊れた本堂に座していた。約束の時間はもうすぐ、リクオを迎えに行かなくてはならないなと少なからず考え始めた頃
彼が迎えの手を出すよりも早く、鴆を引き連れてリクオが牛鬼の目の前に現れた。その表情や瞳は混乱や迷いはすでにない、修行に当たる姿勢が出来上がっていた
「牛鬼、続きを…お願いします!」
その言葉を宣言する表情に思わず浮かんだ穏やかな笑みを、陽光が照らし出していた
「何と口惜しいことか…こんなに近くあるのに、わらわに染められぬとは」
――水滴が水面を弾く音が、大きく響いた
立ち込める冷気は場所柄なのか、それとも吸収される怨念によるものか
暗がりに倒れた花雪の頬を闇の中で映える白い腕が、艶やかに撫ででいた
研ぎ澄ますべくは盈虧
(今は欠けたままの僕だけど、)
(その信頼を乗せられる様な)
(大きな背中になってみせるから)