第五十三幕 研ぎ澄ますべくは盈虧
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ーで…でかい
これは…"あの時"の幻覚とは違う…これが…これが…
牛鬼の畏
妖怪・牛鬼の真の力――――
ぞわり、と牛鬼の畏を正面から受けたリクオの肌が粟立つ。その威圧感の前に発声する為の器官すら押し潰され、一言も喋れない彼は視線で徐々に近付く牛鬼の影を迎える
頭に上がっていた血液が外に漏れた事で先程よりは冷静になった部位で考える。牛鬼が何故ここへ連れて来たのか、何故捩目山の抗争の時の様に自分へ刀を向けるのか
迫り来る牛鬼への緊張感が高まる中である結論へ行き着く、この状況は土蜘蛛の時と良く似ているのだ。今のままでは届かない刃を自分よりも巨大な敵へ届ける"業"を手に入れる為にする事は、
ー牛鬼―――ボクを鍛えようとしているのか!?
「そうだ、それでいい。その姿のまま、私の畏を跳ね返してみろ」
少しは自分の思惑を理解してきたと、祢々切丸を抜刀したリクオの姿に見た牛鬼は彼への配慮を廃し、刀を振り下ろす。この瞬間、もしくはリクオが目覚めた時から修行は始まっていたのかもしれない
彼の頭が割れる事も考慮しない、それもまた致し方なしとされた毅然な剣技を横へ体を動かす事で回避したリクオへ鋭敏な太刀が吹き止む事はなく、
「やらねばならんことはまず一つ
お前の畏を強くすることだ」
先程までは霧散していた畏を刀へ一つに凝縮した事で剣技に更なる重みが加算される、畏抜きでも熟練された剣技はリクオにとって避けるだけで精一杯だというのにそこに畏が加われば――
当然、交わす事も出来ずに、かと言って受け止める事も出来ずに人間である彼の姿は後方に広がる森の木々をクッションとして犠牲にしながら吹き飛ばされた
「いいかリクオ、百鬼夜行とは"総大将の力"に比例するものだ
なぜ、妖怪は百鬼を引き連れて戦うかわかるか………?」
ー百鬼夜行は集団であり、一つの大きな力なのだ
そして、その百鬼を率いる者の力が大きければ大きい程――その力も強くなる
逆に大将の纏う畏が小さければ、それはただの烏合の衆で大きな力にはならない
実戦さながらに無防備な姿を晒すリクオを追い立てる様に牛鬼は百鬼夜行の総大将の心得を口にしながら、その首を捉える。心得を説く声色は冷静だというのに、戦いに置ける姿はその名の通りに猛々しい
動きを封じられたリクオの視界に牛鬼が持つ刀が白く閃く、眩しい程に目に入る。このままでは彼に首を落とされるだろう
「つまりリクオ、お前が"強く"なれば、決してくずれぬ強力な百鬼夜行を作れるのだ!!
そしてその百鬼夜行の強さはおのれに還ってくる」
大木をも一太刀の元に砕く刀を寸出の所で祢々切丸で牛鬼の手を振り払い、リクオはまた彼と距離を開く
繰り返しである、リクオは"ぬらりひょん"として相手の攻撃を交わす事は出来る。だがそれだけ、その後を突く決定的なものに欠けていた
「お前が真の強者となり、誰からも信頼を得て固い絆で結ばれたとき、」
ー"還ってくる大きな力"
それがもう一つ、お前が手に入れるべき"業"なのだ
「ぐ…」
「羽衣狐は復活するたびに強くなる」
現在の羽衣狐の尾は九にも上る、それは九度の転生を試みた証でもある。若かりし頃のぬらりひょんが倒した時よりも遥かに力を蓄えている筈、そんな相手を倒すのだ、ただ交わすだけの力では足りない
リクオは"ぬらりひょん"という本質を越えなければならない。その為に助力は惜しまないと、羽衣狐との因縁をリクオならば断てるという期待が彼に向けられた刀の波紋に映る
「だから、お前は祖父も父も越えねばならんのだ」
「……こ、越えるって…ぼくは…花雪と違って、四分の三は人間だ…
どーすれば、じーちゃんを越えられるの…!?」
「人間だから弱いという考えはすてろ。なぜなら、奴良組が最強をほこったのはお前の父の代だったからだ
人の血が半分流れていたにもかかわらず――――だ」
牛鬼からの指摘にリクオの体感時間が止まる。越えなければならない、本質――それはてっきり、自身の祖父であるぬらりひょんであるとばかり思っていたが、その前に一人いたのを忘れていた
半妖である父の存在、自分と同じく人間の血を引きながらも奴良組の全盛期を築き上げた人物。そんな父は一体どうやってその時代を作り上げたというのだろう
「お前は以前、妖である自分を否定していた」
周囲の木々を根から掘り起こす、強烈な一振り。頭を強く殴られたような衝撃に意識を奪われたリクオは自身の間合い内に牛鬼が踏み込んでいたのにも気付いていなかった
根から吹き飛ばされた木々との間を縫い、一緒に吹き飛ばされたリクオの体、後頭部から辛うじて耐え切った木の体へ飛び込む
「私は捩目山でお前に人を捨てろと言った、それはお前に妖の総大将としての覚悟を迫ったからだ。そして妖である自分を認めた時、お前は強くなった
次は人である自分を受け入れるのだ、人は時に雪に折れない樹々の弛みにも似たあしなやかな強さをもつ」
.