第五十幕 晦冥は残影を残し行く
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初めて目の前の相手から興味が反れた土蜘蛛が動いた気配に瞬時に勘づいた花雪の意向に従い、月鳴が守備に特化した形で二人を包囲する
強固な守りを誇る筈のその技さえも破られるのは時間の問題、そう取れる程に土蜘蛛の拳は一つ一つが重かった。せめてこの守りが破られる前にと花雪は苦痛を訴える表情を隠し切れずに氷麗に指示する
「つらら、ちゃん…後ろに下がってて……っ」
「で、できません!そんな、姫様を置いて…」
「こそこそしてんなよ」
リクオの鏡花水月の時と同じく、畏と畏の隙間に突き立てられた土蜘蛛の指が花雪の鬼憑を白紙を破る様な柔らかさで破り捨てる。いけない、と危険信号が血流と共に脳内を駆け巡る
だがその信号に逆らい、花雪は咄嗟に氷麗を突き飛ばす。幸いにも今、土蜘蛛の興味は自分へ向かっている。それを利用すればあるいは、と考えた
何故、と目を見張る氷麗の青く凍り付いた表情を目に焼き付け、花雪の体は綿の様な軽さで土蜘蛛の鉄球の様な拳によって吹き飛ばされた
「花雪様!!!」
『桔梗、ちゃん』
血飛沫を纏い、空へ舞い上がる花雪の姿にあの日の桔梗の最期が重なる
彼女もぬらりひょんという最愛のひとを守ろうと行動し、その命を散らせた。月夜見の一族は何故、こうも誰かの盾であろうとするのか――
「あんた、何言うてんの!あれは桔梗って人やない…月夜見さんやろ!」
『……!』
ゆらが秀元の認識を断ち切った背後で竜二が言いつけ通り、祢々切丸を回収しようと秘密裏に動いていた
果敢にも土蜘蛛に立ち向かい、打ち捨てられた姿に同情の一つもしてやろうと思い描いていた竜二。だがその場に訪れた彼は目を疑った
「!な…何…?」
そこには無惨に転がった死に体が一つある筈だった
代わりにあったのは、ただの布と化した羽織の名残だけ。そこにはリクオも、回収する筈だった祢々切丸もない
ー私、戦うということを甘く見過ぎてたんだ
戦う術を身に付けて、私でも誰かを守れるって自惚れて…その代償がきっと、この惨状を招いた
体が軋む程の痛みを負った筈の花雪。だがその痛みは痛覚が仕事を放棄したかの様に感じられなかった。痛むのは胸、心だ
次々と仲間がいたぶられ、苦しんだ挙句に死に絶える――視覚的拷問に負けた罰を己へ化し、氷麗はせめて、と動き、こうなった結果に花雪の心は修復出来ない程に手折られていた
ずたずたに引き裂かれた心に辛うじて残った一辺の欠片は後悔や情けなさの感情でじくじくと痛みを発生させ、体中に蔓延する。体の傷は二の次だ
「う…」
空を暫しの間、漂っていた体が覚悟していた衝撃とは違うものに包まれる。固い地面ではない柔らかさ、これは一体と確認しようとする視覚が水面の様に痛みに揺らぐ
揺れる水面はそこに映る人物を象る線を確立させない。けれどこの温もりを、香りを花雪は良く知っていた
――彼だ、彼が帰って来てくれた。それを知った心が砕かれた破片を手繰り寄せ、回復していき、瞳から溢れた雫が血と混じり合い、大地を濡らした
「リク、オ……ごめ、んね……私じゃ、やっぱりだめ……だった…
お願い…みんなを、たすけて……もう…だれも、傷付かせ…ない、で…おね、がい……」
私では出来ない、けれどそれでも助けたくてそう嘆願し、花雪はリクオの腕の中で力つき、支えるものがない体はずるずると崩れ落ちる
その小さな、華奢な体が崩れ落ちる光景をリクオは呆然と見つめ、言葉にならない感情の渦に飲み込まれる
「てめぇぇは、んだ…まだ生きてやがったのかああ!?」
氷麗を含めた百鬼夜行の大半を食らいつくした土蜘蛛は壊した筈のリクオのしぶとさに声を荒げた。死に損ないを見下ろす、無感動の瞳を真正面から受け止めるリクオ
口内で粘つく、不愉快な感覚を拭う為に溢れかえった血を吐き捨て、彼は口を拭うと土蜘蛛を睨み付ける。まだ、闘志はリクオの中で微かな炎として燻っていた
「……………てめーが殺しそこねたんだろ…」
決して、リクオがしぶといのではない。土蜘蛛の爪の甘さと自分への過信が真似いた結果だとその言葉を彼は修正する
「こいつらは…オレの部下だ…オレの畏についてきたやつらなんだ…
"ボク"が生きてるうちは…こいつらに、花雪に手ェ出すんじゃねぇよ…」
力つきながらも自分に全てを託した花雪の手は小さく、傷の存在しなかった白い肌には微かな傷と血が付着している。その傷一つ一つがリクオの怒りへ転化していく
一人称の変化が現す通り、流れる雲の隙間から溢れる陽光の到来によって、リクオの体からは妖としての姿を形成する畏が剥がれ、人の姿へ帰化しつつある
「百鬼夜行壊すってんなら、オレを殺ってからにしろ
くそったれ」
愛する少女を抱き締め、言葉として成立する事が紙一重なその慟哭は鬼神を、血文字を彷彿とさせた
晦冥は残影を残し行く
(光訪れようと)
(闇と血臭は濃く)
強固な守りを誇る筈のその技さえも破られるのは時間の問題、そう取れる程に土蜘蛛の拳は一つ一つが重かった。せめてこの守りが破られる前にと花雪は苦痛を訴える表情を隠し切れずに氷麗に指示する
「つらら、ちゃん…後ろに下がってて……っ」
「で、できません!そんな、姫様を置いて…」
「こそこそしてんなよ」
リクオの鏡花水月の時と同じく、畏と畏の隙間に突き立てられた土蜘蛛の指が花雪の鬼憑を白紙を破る様な柔らかさで破り捨てる。いけない、と危険信号が血流と共に脳内を駆け巡る
だがその信号に逆らい、花雪は咄嗟に氷麗を突き飛ばす。幸いにも今、土蜘蛛の興味は自分へ向かっている。それを利用すればあるいは、と考えた
何故、と目を見張る氷麗の青く凍り付いた表情を目に焼き付け、花雪の体は綿の様な軽さで土蜘蛛の鉄球の様な拳によって吹き飛ばされた
「花雪様!!!」
『桔梗、ちゃん』
血飛沫を纏い、空へ舞い上がる花雪の姿にあの日の桔梗の最期が重なる
彼女もぬらりひょんという最愛のひとを守ろうと行動し、その命を散らせた。月夜見の一族は何故、こうも誰かの盾であろうとするのか――
「あんた、何言うてんの!あれは桔梗って人やない…月夜見さんやろ!」
『……!』
ゆらが秀元の認識を断ち切った背後で竜二が言いつけ通り、祢々切丸を回収しようと秘密裏に動いていた
果敢にも土蜘蛛に立ち向かい、打ち捨てられた姿に同情の一つもしてやろうと思い描いていた竜二。だがその場に訪れた彼は目を疑った
「!な…何…?」
そこには無惨に転がった死に体が一つある筈だった
代わりにあったのは、ただの布と化した羽織の名残だけ。そこにはリクオも、回収する筈だった祢々切丸もない
ー私、戦うということを甘く見過ぎてたんだ
戦う術を身に付けて、私でも誰かを守れるって自惚れて…その代償がきっと、この惨状を招いた
体が軋む程の痛みを負った筈の花雪。だがその痛みは痛覚が仕事を放棄したかの様に感じられなかった。痛むのは胸、心だ
次々と仲間がいたぶられ、苦しんだ挙句に死に絶える――視覚的拷問に負けた罰を己へ化し、氷麗はせめて、と動き、こうなった結果に花雪の心は修復出来ない程に手折られていた
ずたずたに引き裂かれた心に辛うじて残った一辺の欠片は後悔や情けなさの感情でじくじくと痛みを発生させ、体中に蔓延する。体の傷は二の次だ
「う…」
空を暫しの間、漂っていた体が覚悟していた衝撃とは違うものに包まれる。固い地面ではない柔らかさ、これは一体と確認しようとする視覚が水面の様に痛みに揺らぐ
揺れる水面はそこに映る人物を象る線を確立させない。けれどこの温もりを、香りを花雪は良く知っていた
――彼だ、彼が帰って来てくれた。それを知った心が砕かれた破片を手繰り寄せ、回復していき、瞳から溢れた雫が血と混じり合い、大地を濡らした
「リク、オ……ごめ、んね……私じゃ、やっぱりだめ……だった…
お願い…みんなを、たすけて……もう…だれも、傷付かせ…ない、で…おね、がい……」
私では出来ない、けれどそれでも助けたくてそう嘆願し、花雪はリクオの腕の中で力つき、支えるものがない体はずるずると崩れ落ちる
その小さな、華奢な体が崩れ落ちる光景をリクオは呆然と見つめ、言葉にならない感情の渦に飲み込まれる
「てめぇぇは、んだ…まだ生きてやがったのかああ!?」
氷麗を含めた百鬼夜行の大半を食らいつくした土蜘蛛は壊した筈のリクオのしぶとさに声を荒げた。死に損ないを見下ろす、無感動の瞳を真正面から受け止めるリクオ
口内で粘つく、不愉快な感覚を拭う為に溢れかえった血を吐き捨て、彼は口を拭うと土蜘蛛を睨み付ける。まだ、闘志はリクオの中で微かな炎として燻っていた
「……………てめーが殺しそこねたんだろ…」
決して、リクオがしぶといのではない。土蜘蛛の爪の甘さと自分への過信が真似いた結果だとその言葉を彼は修正する
「こいつらは…オレの部下だ…オレの畏についてきたやつらなんだ…
"ボク"が生きてるうちは…こいつらに、花雪に手ェ出すんじゃねぇよ…」
力つきながらも自分に全てを託した花雪の手は小さく、傷の存在しなかった白い肌には微かな傷と血が付着している。その傷一つ一つがリクオの怒りへ転化していく
一人称の変化が現す通り、流れる雲の隙間から溢れる陽光の到来によって、リクオの体からは妖としての姿を形成する畏が剥がれ、人の姿へ帰化しつつある
「百鬼夜行壊すってんなら、オレを殺ってからにしろ
くそったれ」
愛する少女を抱き締め、言葉として成立する事が紙一重なその慟哭は鬼神を、血文字を彷彿とさせた
晦冥は残影を残し行く
(光訪れようと)
(闇と血臭は濃く)