第五十幕 晦冥は残影を残し行く
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「さぁて、次は誰にしようか」
一通り、リクオで遊び尽くした土蜘蛛は彼への興味を消散。もうこれは使えない、先程までの執拗さが嘘の様な潔さである
次に自分を楽しませてくれるであろう相手を吟味していた土蜘蛛の指がその相手を見つけ出してしまった。大食家は彼女を所望した
「お前…うまそうだ」
「!!」
「え…」
「冷麗!?」
「いくぜ」
どんな基準で冷麗が選ばれたかは分からない。分かるのはこれ以上、リクオの二の舞を踏ませてはならないという事だけ
戸惑うのに目もくれずに土蜘蛛はその巨体を冷麗へ向ける。リクオでさえも手出し出来なかった相手に彼女が太刀打ち出来る可能性は万に一つもないだろう
「待て!! 誰がやらすか!!」
「下がれ、冷麗!!」
「土彦…」
凶悪な存在の前に怯む事なく、自分を守る為に危険を省みずに飛び出してくれた土彦の背に冷麗の表情も一時和らぐ。彼がいるなら、という安堵感は何にも勝る後ろ盾
自分達の仲間を傷付けさせる訳には、とリクオを守れなかった代わりに駆けつけるイタク達の甲斐も虚しく、後ろ盾諸共に土蜘蛛が振るった煙管が二人の信頼と共に踏みにじられた
最後の抵抗としてか、冷麗が刹那に放った畏が煙管を氷結させてみせた。まるで遠野一家の誇り、魂は譲らないという様に
「ん…?なんだこいつ…氷の妖怪だったのか、ひっついて取れねえな」
「あ、あぁ……!」
「てめぇえええぇ―――」
何の感傷も、倒した相手への敬意もない侮蔑とも取れる言葉を受けたイタクは烈火の如く憤り、土蜘蛛へ敵討ちの刃を吹っかける。いつもの冷静さも何もない、暴走だった
算段もない単純な特攻を軽く受け流し、土蜘蛛は腕に止まった羽虫を払う様な動作でイタクを撥ね除けた
「出しゃ張んな、オレが選ぶまで待ってろ
次はそこの…おめーだ」
武闘派を掲げる奥州の彼らでさえも太刀打ち出来なかった相手にかなう者は現れず、ただただ無差別な虐殺だけが続く。秩序をなくした場はむせ返る様な血の香りで包まれていた
次は一体誰が、次は自分かもしれない、という恐怖が土蜘蛛を助長させ、更なる混沌が哄笑する。無秩序な場で土蜘蛛を制御するものは存在しない
「………………こんな…こんな…」
無謀な事をするな、と釘を刺されたゆらは目を覆いたくなる程の惨状を前にしても手出し出来ない
こんな一方的な殺戮が許されていいのか、何も出来ない自分自身に彼女はやり切れない思いにもどかしささえも痛感していた
『竜二…作戦変更や、祢々切丸と月読を回収する』
「なッ…」
「……」
「な…何言うとんねん!?」
『最悪な状況はさける。竜二頼むで、ゆらは逃げろ』
「でも…でも!!」
この状況を見て、逃げろというのかと秀元の判断に怒りさえも覚えるゆら。だが彼女達、花開院家が目指すは羽衣狐討伐――それにはリクオでなく、祢々切丸さえあれば充分なのだ
それを分かっているからこそ、彼女は判断へ簡単に首肯する事は出来なかった。陰陽師であってもかつて自分を助けてくれた彼から目を背け、一人逃げる事に思い惑っていた
「次はおめーだ、女」
この場から手を引き、逃げる事に躊躇うゆらの背後でそう脈絡なく指名されたのは――氷麗
幼い頃から見守り、必ず守ると自分へ誓い続けたリクオを失った喪失感で空蝉となっていた彼女は突きつけられた指を人ごとの様に見上げていた
ー及川…さん…?
次に指名されたのが氷麗だと知ったゆらは更にこの場に足を縫い止められる
あんな抜け殻同然の彼女が土蜘蛛に太刀打ち出来るのか、そんなゆらの危惧は心の奥底から燃え上がる様な氷麗の憎悪が焼き払う。この巨悪に仇を討つ事が出来るのは願ってもないこと
「リクオ様の、カタキ………」
ー風声鶴麗
「つららちゃん!」
ー朔望・如月
狙い外れる事なく、氷麗を打つ筈だった拳が不意に上空から生じた重みに耐えかね、撃墜した。呆気に取られる土蜘蛛の意表を衝いたのはこの惨状を嘆き、足を竦ませていた花雪
リクオの残した百鬼夜行が次々に破壊されていく目を背けたくなる様な光景、氷麗までもが討たれかねない状況が彼女を漸く突き動かしたのだ
けれど、花雪が出てきた事に氷麗が快く思う筈はない。何故、全てが終わるのを待てなかったのか、と心を振り絞った悲鳴の様な声が花雪の行動を非難した
「花雪様、何故…どうして前に出て来たんですか!
私にはもう、あなたを守る役目しか残ってないのに…っ」
「リクオがいない今、彼の百鬼を守るのが私の役目…!」
「ああ、てめぇか。羽衣狐が言ってたのは
少しは、楽しめそうだ」
「っ……」
ー行雲流水・女竹
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