第五十幕 晦冥は残影を残し行く
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「立ってくるたぁ~~、いい度胸よ!!」
瓦礫の下より這い上がって来たリクオ達を見つけるなり、土蜘蛛は笑みを含んでそう称した。よくぞ立ち上がったと健闘をたたえるかの様に脅威とも捉えずにリクオ達を歓迎している
つい数分前の戦闘で自分に傷一つ負わせる事も出来なかった百鬼夜行を完全に甘く見ている様だ、まだ物足りない空腹の身を満たす楽しみに、にぃぃと不気味につり上がった弧の隙間から煙管の煙が漏れた
ー朔望・蛍火神楽―
暖かな光が海底から沸き上がる水泡の様にふわり、ふわりと浮遊し、リクオ達の傷を癒す――花雪の鬼憑である
瓦礫からリクオ達を守り切り、持ち主の腕へと戻った月鳴からその光は溢れている。先程の鬼憑が守備に特化しているなら、この技は治癒に秀でていると言えるだろう
通常、花雪が自身の力を使う際は対象が一人と限られる。だがこの技は能力を鬼憑へ昇華した為にこの場で傷付いた全ての者達にその力を満遍なく行き届かせる事が出来た
「花雪のおかげでまだ、戦えそうだな」
「リクオ、逃げよう?あの妖怪を相手するには私達じゃ…!」
今にも泣きそうに顔をくしゃり、と歪める花雪の口からそれ以上の言葉が紡がれるのを静止する様にリクオの骨ばった人差し指が置かれる
ここから先、戦闘という性分は自分と子分達の領分――そこに彼女の様な、守られるべき存在が必要以上に踏み込むのを許容出来ないからこその、圧力
――けれど、そう簡単に引ける話なら、花雪とてここまで引っ張る様な真似はしない。土蜘蛛という妖はそこまで恐ろしい存在だという事を饒舌でないこの口は証明出来ない
「っ…お願い、私の話を…!」
「もっともっと、楽しませてくれ!!」
「来たぞ!! 心せよ、皆の者!!」
「後ろに隠れてな、花雪」
「リクオ!!」
再戦に意図を引き締める百鬼夜行、彼らと同様にリクオも消えた傷口から流れ、頬にこびりついたままの血を乱暴に拭うと出遅れぬ様にとすぐさま、祢々切丸を抜刀
だが土蜘蛛は大将を守る為に前衛を固める百鬼を歯牙にもかけない、といった様子でまずリクオをその拳で狙い打つ。傍目からはその体が拳で弾けた様に見える光景に氷麗が背筋を凍らせた
「若!!?」
「案ずるな、雪女!!」
氷麗の心配を他所に土蜘蛛の拳で弾けたと思われたリクオの体は霧散し、風へ流される
「あれこそ、リクオ様が遠野の地であみ出したぬらりひょんの奥義。認識をずらす…」
ー鏡花水月―
いくら土蜘蛛が脅威であっても、認識という意識まではどうにもならない――そう誰もがその技を過信し、リクオの無事に安堵しきっていた
「こざかしいわ」
だがその安心し切っていた表情さえも凍らせる様な出来事が土蜘蛛の手で起こった。自身とリクオの境目に存在する隙間に指を滑り込ませ、割り裂いたのだ。認識を破る、と同じ意味合いの乱暴な方法で
ずらされた認識という死角の中で土蜘蛛の隙を打たんとしていたリクオを見つけ出した土蜘蛛が、動きを止めた彼を嘲笑う
「な……」
「まずはてめーだ」
百鬼も、そして何よりもリクオ自身も信頼し切っていた技が破られた反動は凄まじく土蜘蛛を目の前にしても、大将の危機に体の動きは完全に封じ込められた
上へと蹴り上げたその足は巨大な鉄槌そのもの、一蹴であらゆるものを粉砕しかねない重い一撃を身一つで受けたリクオの体から、内包された血液が耐えられずに噴出する
「鏡花水月が、やぶられた…?!」
「……!?」
ーリクオの畏が通用しねぇ!?
「まずい………」
「ああ、あいつ止めんぞ」
「リクオ!! てめーは下がってろ!! オレたちがやる!!」
リクオの畏ならず鬼憑までも通用しない事にこれまでにない危機を察知し、事の成り行きを見守っていたイタク達が溜まらず駆け出す。リクオに土蜘蛛は荷が重すぎると判断してのものだろう
だが土蜘蛛の重すぎる一撃を貰ったリクオはすぐさまにイタクの呼び掛けに反応出来ない。中空で動きが制限された彼の体にすぐさま、追加の攻撃が重くのしかかる
両手合わさった事で威力が倍増した拳による打撃を受けたリクオの体がボールの様に地上でバウンドし、彼の落ちた箇所にはおびただしい量の血が何かの目印の様に飛沫する
「な……」
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