第八十一幕 例え百年の時が経とうとも
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「お姉様……!! 羽衣狐様をかえして!!」
「待ってろ!! 今、治療してやってるのだ」
「ううう…うそだっ」
「そのガキ、止めとけよ!!」
晴明が下僕を連れ立ち、地獄へと帰還した場ではリクオと花雪を庇った為に魔王の小槌による一太刀を受け、深い傷を負った羽衣狐の手当が鴆と花雪の手によって行われていた
深い傷を負った主に狂骨は今にも駆け寄りたい気持ちでいっぱいだろうが、制止役である首無がいる為にそうも行かない。今は黙って花雪と鴆の手当を見守り、待つしかない。敵の施しを受けるのはやや不服ではあったが
「
あの娘が奴良組に嫁ぎ、共にくらしていたのはな…」
『親父。オレ、この
ある日の事、いつもの様にぶらりと一人で外出した先で鯉伴は一人の女性を連れ、屋敷へと帰ってきた。それがただの妖としてではなく、結婚したい女性と息子から紹介された父ーぬらりひょんの心は落ち着いたものではなくなる
ぐいっと力任せに自分の方へ引き寄せた鯉伴は痛みに表情を顰める、だがぬらりひょんにとってはそれは知ったこっちゃない。突然、結婚したいという女性を連れて帰ってこられた、こちらの身にもなって欲しいものだ
『あいたっ』
『おいまて、鯉伴…どこでひろってきた、あの娘!!』
『あん?なんだよ、親父になれそめなんて言ってどーなるんだよ』
『てめ…ワシ、父親じゃぞ!?』
この息子、何かと父親を蔑ろにし過ぎである。これは何を言っても口を開くまいとぬらりひょんは息子の性格を良く知っている為、早々に娘と鯉伴の馴れ初めーつまりはどこで会って、結婚まで結びついた話を聞く事を諦めた
途方に暮れたぬらりひょんが向いたのは話の最中もそこに立ったままの女性だった。鯉伴が話さないのであれば、こちらに聞くしかない。奴良組の事は承諾しているだろうが、本当にその二代目の妻になる覚悟はあるのか、その心を
『あんた…いいんじゃな、こいつの嫁は…ちと大変だぜ』
『はい…山吹乙女と申します。ふつつか者ですが…よろしくお願いします』
ーただただ、おしとやかで…美しい妖じゃった
白く透き通る様な肌にほんのりと朱を浮かばせ、上品に微笑む女性は全てを承知した上で鯉伴と結婚する事を決めたのだろう。それを知った以上、ぬらりひょんは女性や鯉伴に口出しする事はなかった
それから暫くしてすぐ、鯉伴とその女性ー山吹乙女の祝言が行われ、二人は正式な夫婦となった。妻を迎えた事で勢いづく鯉伴と共に彼の百鬼も日に日に大きくなっていた、そしてそのすぐ傍にはいつも乙女の姿があった
「そこからヤツの栄華の日々は始まった、日に日に成長してゆく奴良組は鯉伴と共に大きくなっていった
その日々は長く長く続いた…何も変わらずに、それが…逆にあの娘にとっては酷になったのだろう」
「え?」
「鯉伴は狐の呪いで妖とは子を成せんかった、そのことはなかなか気付くことができんかった
ワシがあまりにも自然と人の子を成していたからな」
『後つぎはいつになったら、出来るのか…』
『…なんだかんだと50年たちますな』
月夜見家がぬらりひょんの血筋と関わる事で死を迎える呪いを受けた様に、奴良家もまた妖と妖との間に子を作る事は出来ない呪いを受けていた。それを知らずに夫婦となった二人に五十年もの間、子に恵まれずにいた
跡継ぎに恵まれない事を心配し、落胆する声を他ならぬ乙女が襖の影から聞いてしまっていた。全ては羽衣狐によって残された呪いが原因、けれどそれは百鬼も、そして乙女自身も知らない事――やがて乙女は自分を責める様になった
ーしかし、
ある日、八重咲きの山吹を一枝のこし、姿を消した
『これは…』
ー傍らには古歌がそえてあった
七重八重 花は咲けども山吹の 実のひとつだに なきぞ悲しき
ーはなやかに花を咲かせても―――
出掛け先から鯉伴が帰ってきた頃には乙女は百鬼や彼に知られない様に屋敷を出た後だった、だがそれを知らない鯉伴はいつも真っ先に出迎えに来る筈の乙女の姿がない事に胸騒ぎを感じ、乙女の姿を求めて屋敷中を探した
けれどすでにいなくなった後の乙女の姿を鯉伴は見つける事が出来ず、代わりに見つかったのがその文だった。その文に記されていたのは二代目の栄華とその裏にあった跡継ぎに恵まれない事を嘆いた歌だった
「…そんなことが…」
「今となっては古い連中しか知らん、そしてあの娘がその後どうなったかは誰も知らん…」
「
「!!」
話を引き継ぐかの様に上がった声に振り返ると花雪と鴆の手当を受け、眠っていた筈の羽衣狐が目を覚ましていた。砕けた祢々切丸だけでなく、魔王の小槌も受けたというのにその生存力には目を見張るばかりだ
けれどその性格には些か変化が訪れている様にも見受けられる、羽衣狐本体が地獄へ落ちた為に本来の依代の人格が目を覚ましたのだろうか。だとしたら、乙女そっくりだと言うこの女性は一体何者だというのか
「は…羽衣狐!!」
「お姉様!!」
「妾は…まっくらな世界で…声をききました」
『この女か…』
『この女を反魂の術で……』
ー反魂…
「まさか…あんた…山吹乙女そのものなのか…?」
「「「!!」」」
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