第八十幕 かつて、山吹の花が咲いていた
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「リクオ」
「リクオ様、花雪様!!」
「リクオォ、何やってんでぇ」
「!つららちゃん、皆…」
「花雪様!ご無事ですか?!」
人知れず、月鳴を握る手に力を込めた時、駆けつけた仲間の姿に花雪はハッと我に帰った。そうだ、自分が憎悪の念に囚われるがままに晴明に向かっていくのは簡単だ。けれど残された仲間達を心配させるのは望んでいない
現にリクオが自分と鬼纏をしたまま、清明に向かっていった事で相当な心配を買ったらしく、花雪を覗き込む氷麗の顔は心配の色一色だ。彼女にはいつも心配をかけてばかりだと冷静さを欠いていた頭で反省する
「しかたない…」
「ウワアアアアア!?」
どうやらまだ現世に体が馴染んでない事と花雪の癒しの力が反対の作用を起こした事で体が崩壊したと悟った晴明は前触れなく、二本の指を空中目掛けて突き上げる。その行動と連動して地上にも変化が起こった
地上に残る京妖怪達の前で煮えたぎっていた地獄の窯が姿形を変える、それは鬼が大口を開けたかの様な門構え。口の奥は異世界か何かに繋がっている様で、はっきりと先は見通せない
「ひっ」
「な……なんじゃこりゃ」
「地獄の門!?」
「ここは一旦引くとしよう。千年間、ご苦労だった。鬼童丸、茨木童子…
そして
まだ現世に体が馴染んでいない為に今は地獄に撤退する事にした晴明の狙いは、完全な体の定着の他にいずれは世界を自分の手で闇に包む為の下準備といった所だろうか。彼にとっては地獄は第二の故郷と言うべき場所だ
だが本物の地獄というものを見た事がない京妖怪達には地獄というものがどの様な所か、想像が出来ない。本当に清明に着いていっていいのか――そんな疑いも晴明の持つ畏を前にした途端、どこかへと消え去ってしまった
「じ…地獄……」
「あ…せ…晴明…さま…」
「どうした、行かないのか。オレは行くぜ」
「茨木っ…!! わ、私は感動していただけだ!」
先ず最初に晴明の言葉に動きを見せたのは首無との戦いに身を投じていた、茨木童子だ。天啓の様にも響く晴明の言葉に身を振るわせていた鬼童丸も遅れて地獄への門をくぐり、現世を離れていく
幹部であった二人の行動を見た為にか、行くべきか残るべきか迷っていた京妖怪達も次々と亡き羽衣狐の元から去り、晴明を新たな主と決め、二人の後へと続いて行く。晴明の持つ畏に集い、新たな百鬼が生まれようとしていた
「オ…オレも」
「晴明様」
「鵺様!!」
「え…ああ…私は…行かない…私の主はお姉様だから……」
「待て」
行くべき者もいれば、残る者も当然現れる。羽衣狐を姉と慕って来た狂骨は例え彼女が死んだといえども、直ぐさまに新しい主に乗り換えるという事は出来なかった。ましてや羽衣狐を地獄へ落とした晴明を新しい主と認める事は出来ない
逃がしてたまるかとリクオも地獄へと向かう京妖怪達の波に乗ろうとするも、物陰から飛び出してきた小柄な影ー彼の祖父 ぬらりひょんによって取り押さえられる。何故、祖父がここにいるかはこの際、どうでもいい
問題は何故、地獄に戻ろうとする晴明を追う事を止めたかという事だろう、だが肝心な事をリクオは忘れている。もしぬらりひょんが止めずに地獄に向かったとしてもどう戦うというのか、彼には祢々切丸はないというのに
「!?」
「リクオ、早まるな!!」
「じ…じじい…っ!?」
必死にその拘束を抜け、晴明の後を追いかけようとするリクオと決して孫を地獄へ行かせまいとする祖父の攻防戦の間にも地獄へ通じる門は火力を上げる。その勢いは天にまで届き、頂点を焼け焦がしてしまいそうな程だ
自身の畏に集った百鬼を束ね、晴明が再び地獄へ還っていく様子をリクオは見つめる事しか出来ない。自身の武器である祢々切丸を失った以上、深追いしても清明によって返り討ちにされるのが関の山だと分かったからだろう
「近いうちにまた会おう、若き魑魅魍魎の主よ…」
晴明達を飲み込んだ地獄の門はまるでそこに始めから何もなかったかの様に霧散して消え失せた。残っている京妖怪達もいるが、羽衣狐という主と多くの同胞を失った事で奴良組と戦う気力も削がれ、痛い程の静寂が場を包む
次に会う時はきっとその体が完全に現世に馴染み、崩壊する事がなくなってからだ。それがどれ程の時間を有するかは分からないが、先ず間違いなく死闘となるに違いない。己が全てを賭けた総力戦、今までにない大きな戦いとなるだろう
「う…ん…」
「あ…い、今治しますから…っ」
「じじぃ…もしかして…こいつぁ…オレの姉弟なの…か…?」
「!?」
「え?」
「この人が、リクオのお姉さん…?」
魔王の小槌による一太刀を受け、瀕死の状態を負った羽衣狐に自分の力で治療を施していた花雪は、リクオの発言にまじまじとその整った顔立ちを見つめた。この女性がリクオの姉、中々には信じ難い話だ
きっとリクオは戦いの最中に蘇った記憶に現れた鯉伴を見て、羽衣狐が発した「お父様」という言葉からそういう結論に至ったのだろう。だが花雪の治療を受ける羽衣狐を見つめるぬらりひょんはその臆測に首を横に振った
「そいつは…違うじゃろう、鯉伴は妖とは子が成せん体じゃったからな…」
「!じゃ、じゃあ…」
「そうだ…しかしうり二つじゃわい…名を――山吹乙女といったか、かつて鯉伴の妻であった妖に…」
かつて、山吹の花が咲いていた
(それは数百年前にも遡る)
(ある男女の悲恋の話)