第七十九幕 天照の光すら、もう見えない
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まだ息はあると分かっていたが、まさか動けると思っていなかった錫兎は鏖地蔵から刀を奪い返し、切っ先を向ける。全ては楓も守ろうとした愛娘を晴明や鏖地蔵達の魔の手から逃す為に、彼は晴明達の前に立ちはだかる
父の傷を自分の力で癒そうとしたのか、駆け寄ろうとする花雪と錫兎の間で屋敷の屋根が倒壊。二人を隔てる様に落下してきた屋根の一部を花雪は乗り越える事ができない。そうしている間にも炎の勢いは増すばかりだ
「おとうさん!」
「花雪、逃げるんだ…決して振り向いちゃ、いけない…」
言い様のない不安に駆られ、幼い花雪は父に言われるがまま、その場に両親を置いて逃げ出すしかない。自分が逃げ出した背後からは家を焼く音の他に刀が振るわれる音が後を追ってくる、娘が逃げるまでの時間稼ぎを父がしているのだろう
一体、あの男と妖は誰なのか、何故自分達 家族がこんな目に合わなければならなかったのか――そんな疑問を遥かに越える感情が幼い花雪の胸の中で逆巻く。それは何故、父が母を殺したのかという事
殺す程に父は妖である母が嫌いだったのだろうか、だったら母と同じく妖である自分も父は嫌いだったのだろうか、あんなに仲睦まじい両親が本当は憎んでいたなんて信じたくなかった、だから幼い花雪は記憶に蓋をした、清明の存在と共に
「こんな事なら、思い出したくなかった…」
「花雪…」
「…私、耐えられないよ…こんな記憶を受け止められない…!
こんな記憶を思い出したら、あの日々が全部嘘に見えて…苦しいよ…っ」
全てが炎に消えた夜が終え、残ったのは変わらぬ漆黒色の世界。幼い少女が消えた場にはこの世界を造り出し、自分で蓋をした記憶に涙する花雪が座り込んでいた。信じられなかった、母を殺したのが父だなんて
きっと鯉伴の時と同じく他の妖が裏で糸を引いていたと、両親を信じていた花雪にはあまりにもこの真実は重過ぎた。重過ぎて今にも潰されてしまいそうだ、こうなる前にリクオは花雪を見つけ出したかったのだが、遅かった
だが同じ記憶を共有した自分なら、重すぎる真実も一緒に背負う事が出来る筈だと、リクオはそれを伝える為に花雪の涙で濡れる頬を上に向かせる。涙で潤んだ水色の瞳がまるでガラス玉の様に綺麗だ、と不意に思った
「お前がこの記憶を受け止められないって言うなら、一緒に背負ってやる。お前が敵を取る為の刃を握る事ができねぇなら、オレが代わりに握ってやる
全部、一人で背負う必要はねぇ。百鬼がオレと共に闘ってくれるように…花雪も力を借りればいい。オレを信じて預けろ」
「リクオ…」
「それに記憶を思い出したくなかったなんて、二人を否定する様な言葉を言っちゃいけねぇ。二人は花雪を最期まで守ったんだ
……二人をちゃんと弔う為に、その記憶はどんなに辛くても必要なものなんだからよ」
「…うん」
微笑んだ表情は涙の為か、綺麗とは言い難く歪んでいる様にも見えた。無理もないとリクオは花雪の返答の言葉に思う、それでも思い出さなければ良かったと打ち拉がれていた心を花雪は立て直してくれた
言った言葉に嘘はなく、全部を彼女一人で背負う必要はない。彼女が望むのならいつだってその隣に寄り添い、共に背負うつもりだ。今日の様に歩けなくなったなら、自分がその手を繋いで引っ張って行こうと誓う
「戻るぞ、花雪。あの目玉と鵺を放っておけねぇ」
「うん…二人の弔いの為にも戦うよ」
「ああ。力貸すぜ」
「まずはこの街を変える。その先に、私の望む世界がある…」
「もえろ~~もえろ~~ワシの大願がようやくかなったわい、妖も人もわしらの下僕じゃ~~」
「お…お前!!」
「もえ」
晴明の術によって炎上する京都を見て、無邪気に高笑いを決め込む鏖地蔵。妖すらも自分達の下僕にせんとする思考はいずれ人に害を及ぼすだろう、世界が京都の様になる前にとゆらは鏖地蔵を排除せんと攻撃を試みる
背後から近付く気配にも気付かずに鏖地蔵は京都の惨状を楽しむ、そしてその楽しみに水を刺す様に胸に何やら衝撃がぶつかってきた。はて、と胸の方を見下ろしてみると、何と胸を深々と長ドスの刃が貫通しているではないか
「へ?あれっあれっ、なに?
な…なんじゃこりゃあああ、ワシの妖気が…消えてゆくううう!?あばばははがあ」
長ドスが貫いた部位から噴き出したのは血液だけではなく、妖気でさえも外へと漏れ出し、鏖地蔵は姿を象る事が出来ない。たった一太刀を受けただけで何故、死なねばならないのか分からないまま、鏖地蔵は現世を離脱する
隔てりとなっていた鏖地蔵がいなくなった事で晴明ともう一人の若き魑魅魍魎の主が相対する。千年前に死んだ人間の手によって、犠牲になった人間や妖の事を思う彼の心は怒りに燃えていた
「てめぇ…何やってんだ、母に手をかけ…妖怪 達をひっかきまわして…」
「リ…リクオ様!!」
「千年前に死んだ奴が、この世で好き勝手やってんじゃねぇ」
「……なんだ、お前は…?」
天照の光すら、もう見えない
(開けずに泣き腫らした夜)
(そこに現れたのは)
(朝を連れてやってきた貴方でした)
父の傷を自分の力で癒そうとしたのか、駆け寄ろうとする花雪と錫兎の間で屋敷の屋根が倒壊。二人を隔てる様に落下してきた屋根の一部を花雪は乗り越える事ができない。そうしている間にも炎の勢いは増すばかりだ
「おとうさん!」
「花雪、逃げるんだ…決して振り向いちゃ、いけない…」
言い様のない不安に駆られ、幼い花雪は父に言われるがまま、その場に両親を置いて逃げ出すしかない。自分が逃げ出した背後からは家を焼く音の他に刀が振るわれる音が後を追ってくる、娘が逃げるまでの時間稼ぎを父がしているのだろう
一体、あの男と妖は誰なのか、何故自分達 家族がこんな目に合わなければならなかったのか――そんな疑問を遥かに越える感情が幼い花雪の胸の中で逆巻く。それは何故、父が母を殺したのかという事
殺す程に父は妖である母が嫌いだったのだろうか、だったら母と同じく妖である自分も父は嫌いだったのだろうか、あんなに仲睦まじい両親が本当は憎んでいたなんて信じたくなかった、だから幼い花雪は記憶に蓋をした、清明の存在と共に
「こんな事なら、思い出したくなかった…」
「花雪…」
「…私、耐えられないよ…こんな記憶を受け止められない…!
こんな記憶を思い出したら、あの日々が全部嘘に見えて…苦しいよ…っ」
全てが炎に消えた夜が終え、残ったのは変わらぬ漆黒色の世界。幼い少女が消えた場にはこの世界を造り出し、自分で蓋をした記憶に涙する花雪が座り込んでいた。信じられなかった、母を殺したのが父だなんて
きっと鯉伴の時と同じく他の妖が裏で糸を引いていたと、両親を信じていた花雪にはあまりにもこの真実は重過ぎた。重過ぎて今にも潰されてしまいそうだ、こうなる前にリクオは花雪を見つけ出したかったのだが、遅かった
だが同じ記憶を共有した自分なら、重すぎる真実も一緒に背負う事が出来る筈だと、リクオはそれを伝える為に花雪の涙で濡れる頬を上に向かせる。涙で潤んだ水色の瞳がまるでガラス玉の様に綺麗だ、と不意に思った
「お前がこの記憶を受け止められないって言うなら、一緒に背負ってやる。お前が敵を取る為の刃を握る事ができねぇなら、オレが代わりに握ってやる
全部、一人で背負う必要はねぇ。百鬼がオレと共に闘ってくれるように…花雪も力を借りればいい。オレを信じて預けろ」
「リクオ…」
「それに記憶を思い出したくなかったなんて、二人を否定する様な言葉を言っちゃいけねぇ。二人は花雪を最期まで守ったんだ
……二人をちゃんと弔う為に、その記憶はどんなに辛くても必要なものなんだからよ」
「…うん」
微笑んだ表情は涙の為か、綺麗とは言い難く歪んでいる様にも見えた。無理もないとリクオは花雪の返答の言葉に思う、それでも思い出さなければ良かったと打ち拉がれていた心を花雪は立て直してくれた
言った言葉に嘘はなく、全部を彼女一人で背負う必要はない。彼女が望むのならいつだってその隣に寄り添い、共に背負うつもりだ。今日の様に歩けなくなったなら、自分がその手を繋いで引っ張って行こうと誓う
「戻るぞ、花雪。あの目玉と鵺を放っておけねぇ」
「うん…二人の弔いの為にも戦うよ」
「ああ。力貸すぜ」
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「まずはこの街を変える。その先に、私の望む世界がある…」
「もえろ~~もえろ~~ワシの大願がようやくかなったわい、妖も人もわしらの下僕じゃ~~」
「お…お前!!」
「もえ」
晴明の術によって炎上する京都を見て、無邪気に高笑いを決め込む鏖地蔵。妖すらも自分達の下僕にせんとする思考はいずれ人に害を及ぼすだろう、世界が京都の様になる前にとゆらは鏖地蔵を排除せんと攻撃を試みる
背後から近付く気配にも気付かずに鏖地蔵は京都の惨状を楽しむ、そしてその楽しみに水を刺す様に胸に何やら衝撃がぶつかってきた。はて、と胸の方を見下ろしてみると、何と胸を深々と長ドスの刃が貫通しているではないか
「へ?あれっあれっ、なに?
な…なんじゃこりゃあああ、ワシの妖気が…消えてゆくううう!?あばばははがあ」
長ドスが貫いた部位から噴き出したのは血液だけではなく、妖気でさえも外へと漏れ出し、鏖地蔵は姿を象る事が出来ない。たった一太刀を受けただけで何故、死なねばならないのか分からないまま、鏖地蔵は現世を離脱する
隔てりとなっていた鏖地蔵がいなくなった事で晴明ともう一人の若き魑魅魍魎の主が相対する。千年前に死んだ人間の手によって、犠牲になった人間や妖の事を思う彼の心は怒りに燃えていた
「てめぇ…何やってんだ、母に手をかけ…
「リ…リクオ様!!」
「千年前に死んだ奴が、この世で好き勝手やってんじゃねぇ」
「……なんだ、お前は…?」
天照の光すら、もう見えない
(開けずに泣き腫らした夜)
(そこに現れたのは)
(朝を連れてやってきた貴方でした)