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それはとても大切な、天草四郎という青年の根底に関わる夢のお話
聖杯と天秤にかけられ、そして敗れたマスターの少女はそこに寂しさを抱え、何でという慟哭を口にしながら、それでも天草四郎を諦めきれず、首根っこを掴んでこのカルデアに戻ってきた
─────これより先に綴られるはそのトラブルから第7特異点を走り切った後の出来事だ
「──私の悲願は『人類救済』
これを成す為に聖杯がどうしても必要なんです」
どうして、そこまで聖杯を得ようとするのかというルシティカの問いかけへの天草の返答がこうである
カルデアにいる間は、ルシティカのサーヴァントである間は自分の夢を隠し通すつもりであった彼の口を割らせたのは彼女の鶴の一声
曰く「聖杯と自分を秤にかけて、一度は刃を向けられた自分にはあなたの夢を聞く権利がある筈」なのだと
さあ言え、と爛々とどこまでも透き通る夏の空を輝かせながら、絶対命令権を持って聞く事も出来る筈なのにルシティカはあくまで自分の言葉で天草の夢を引き出そうとするのだ
聖杯への渇望を示した出来事への後ろめたさからではなく、ルシティカの愚直なまでの誠実さに天草は白旗をあげた。あまりにきらきらとした幼子のような期待に口が滑ったとも言えるかもしれない
「─────そっかぁ」
「……マスター?」
どうして、君はそんな風に泣きそうなのを堪える表情でいるのか
言葉よりも表情でルシティカの心へ問いかけていたのか、絶句する天草へ彼女は小さく笑って見せた。泣いていない筈なのに、どうしてかルシティカの頬に涙が流れているようにその時、彼は錯覚を起こしていた
「『人類救済』という夢を果たした後のシロウには何が残るの?」
「……他に思う所があなたにはないのですか?
不安視すべきはこの夢を成した先の私ではなく、未だ聖杯を諦めきれないと言ったようなものなのですが」
「聖人でもない、ただの『人間』であった天草四郎という存在(ヒト)はそれでやっと、島原から外の世界へ進めるの?」
聞こえないフリで天草の言葉を聞き流し、なおルシティカはその瞳で彼を射貫く
彼女は知っている、天草四郎の心象風景に広がる焔を、地獄を。彼の愛したもの全てが焔に巻かれながら、彼一人だけが燃えるでもなく、ただそこに取り残されている状況を
天草は思い出す、聖杯を諦めきれない自分を生きている間は邪魔し続ける、という少女の宣言を
元より聖杯を諦められない天草へのアンサーをルシティカはとっくの昔に示し終わっていたのだと思い出した
──否、思い出す必要も本当はない。ルシティカの誓いを忘れた日なんてなかったのだから
悲願を果たした後の自分なんて考えた事もなかった、あの焔に還る事は彼女の言う”島原の外”に該当しないだろう、天草に返す言葉なんてなかったのだ
「あの炎の海から外の世界へ行けるかの話に切り返しが出来ないなら、私はシロウの夢を応援してあげない
……あなたがとうの昔に見切りをつけた『人間』である私は、『人類』よりも好きなひとの安寧を祈りたいんだよ」
「マスター、」
「ねえシロウ。私はキャメロットで死にそうになった時に、怒ってくれたあなたのことがだいすきだよ」
悉くを奪われた日に復讐心も、怒りも全て捨てた青年は『人類救済』という夢を果たす為の装置となった
憎悪すべきは人の悪業とした上で『人間』を赦した、そんな彼が再び宿した憤怒の感情をルシティカは愛していると笑う
それはすなわち彼が見切りをつけた『人間』としての天草四郎を彼女が見つけ、離したくないと伸ばした赤色の命綱
けれど彼女の中では彼がとうの昔に見切りをつけた『人間』と天草を結びつけるのは申し訳なく思っているようで
ごめんね、と愛を言葉にした口で謝るルシティカの拙さに抱き締めたいと瞬間、天草は心を駆り立てられた
「痛みに、地獄に慣れなくてもいいと言っておきながら、あなたを傷付けるのはいつも私ですね」
「シロウは自分の夢を話してくれただけで──」
「でも誤解しています、マスター」
「え?」
「あなたと共にいる間はどう足掻いても、私の夢は果たせないのだと諦めていますから
己がマスターの前での私はただの『人間』として君を、自分の中で譲れないものとする男に過ぎない」
罪悪感からか視線を下ろしたルシティカの頬を持ち上げ、天草は額を押し付ける
きょとり、となお丸みを帯びて自分を見つめる瞳に我慢ならないととうとうルシティカを抱きしめれば、腕の中で漏れる呼吸に彼女が今を生きる『人間』なのだと実感が熱を帯びた
「シ、シロウ…?」
「だから、どうか見切りをつけたなんて思わないでくださいね。…流石に怒りますよ」
頭上から降り注ぐ想いのひとひらは、ただ一人の少女の為に。
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