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「ここで、また1人で待つの…?」
幻想種が住まう世界において、唯一ヒトの形をした来訪者が言葉を紡いだ
悲観ではなく不安から成る言葉に邪竜は慎重に頭を一つ頷いた、この巨体では少しの動作が目の前の少女の命に関わるからだ
ふわり、棚引く雪原を凪ぐ風の中で彼女は『そっか』とこぼす、静寂が広がる世界に落ちた一粒の雫のような言葉からは不安の色が濃くなる匂いがする
「私ね、不安があるんだ
私と出会ったせいで今まで感じないでいた寂しさや虚無を知って、これからの貴方──ジークにいらぬものを抱えさせてしまったんじゃないか、って」
俯きがちの瞳に貼っていた透明な膜が、ルシティカが完全に瞳を閉ざした事で頬を伝っていく
「”来もしない迎え”を待つよりはよっぽど──」
「…………」
魔術師の遺した残影からの言葉に、人工生命の形を取っていた邪竜は何も言えなかった
必ずたどり着く、待っていると約束はした。約束であって書面に契約した訳でもない、彼女が口から出まかせをついたとジークはその思考を否定する
──”彼女”はヒトだ、その人は聖女ではないと自身を否定したけれど世界にとって必要な存在。そんな”彼女”がここにたどり着く未来を描いていいのかと不安になった。故に口が閉じてしまった
「!ルシティカ…」
「ジークには、そこはそんなことないって否定してほしかったな」
「…すまない」
「大丈夫だよ、ジークが否定できないなら私が否定する
いつかの時にいた魔術師さん、”彼女”は嘘で約束なんてしないよ」
「ならば、何故管理者は否定しなかった。ソイツも薄々分かっているからではないのか」
「ごちゃごちゃ五月蠅い」
「な…」
今度は魔術師の残影が、ルシティカの子供じみた否定によって絶句した
黙ったのをよしとしてルシティカに握りしめられた手の力がジークへ籠る。邪竜である彼にとっては痛くもかゆくもない、そんな力の筈なのに繋いだ手は誰よりも生命力に溢れて頼もしく感じた
「”彼女”を知っている人の言葉ならまだしも、二人の事を全く知らない貴方にジークや彼女について四の五の言う筋合いはないって言ってるの」
「叶いもしない約束を”彼女”が、ジークに告げるわけない
途方もない時間を費やしてでも、絶対に”彼女”はその時間の先にたどり着く──待ってくれる、そう信じていたんだから──っ!」
──その時も、自らの友達を侮辱された怒りに涙で頬を濡らしていた
「ルシティカ、我が友。どうか顔をあげてほしい」
「……」
「確かに貴女の言う通りかもしれない、貴女と出会うまでの俺は少ない記憶や体験しかないから寂しさを感じずにいれた
だがその過去を羨むことはこの先もない、ルシティカとの出会いに後悔もない。だからどうか──これからの俺にいらぬものを与えたなんて、思わないでほしい」
「──そっかぁ、ジークは私の事を友達って言ってくれるんだ」
「あ、いや…つい口が滑った……忘れてもらってかまわない」
「やだよ、絶対に絶対絶対…ぜーったい忘れない!」
絶対、それを4度紡いで強固な言霊とする姿に涙はない
そこにある輝かしい笑顔に、邪竜は安心する。静かな世界に響く笑い声はあの時、握られた手と同じように温かく、生命力に満ちていた
「私、もうここに二度と来ることはないよね」
「……」
そんなことはない、と邪竜は否定できなかった
ヒトの形をし、ヒトの世に生きる以上、今回の不測の事態が発生する以外にルシティカと邪竜は2度と邂逅する事は──ない。それをルシティカは知っていたのか、彼女の言葉に疑問符は付属していなかった
「私を呼んでくれて、ありがとう。ジーク」
「俺の方こそ、突然の呼びかけに応えてくれてありがとう、ルシティカ」
彼女からの問いかけに慎重に動かした頭と同じように、少しだけ大聖杯を包む腕をあげる
大聖杯の中の時とは違う形ではあるけれど、別れの握手をしたいという邪竜の想いを汲んだルシティカが手を挙げ──瞬きの間に下ろすのでその願いは叶わない
ーその手を掴むのはやっぱり、”彼女”であってほしいから
別れの時に握手を求めるのは可笑しいだろうかーかつてライダーとの別れを模倣しようとした邪竜の言葉に、ルシティカはそう穏やかに返した
「私ね!ジークも、ジャンヌも!大好きだよ!!
もう二度と会えないけど、あなた達に会えた奇跡の方がとっても嬉しくて大切!あなた達に会えて良かった!
大好きなあなた達の再会を世界の誰もが否定しても、私は信じてる──っ!」
長い夢の果て、覚えているかもわからないからとルシティカが叫ぶ
後悔が残らないよう、自分に出来る限りの力を込めて、友と呼んでくれた邪竜へ最後の瞬間を燃やす
「大好きなあなた達に負けないように、私も頑張る!
苦しくて、辛くて、痛くても生きて…シロウと…っ!だから、ジークもがんばれ!」
瞳を瞬かせた後には白い少女の形をした来訪者の姿は消えていた
言葉の名残はこの世界には存在しない、それでも──確かにこの胸にはルシティカの言葉が温かく宿っている
「ああ──やっぱり、貴女に会えてよかったんだ。ルシティカ」
ジャンヌ・ダルクが誠実な女性だと、あの時の約束を果たしに彼女は来てくれるとルシティカの言葉が信じさせてくれる
不要な出会いだったと不安にさせてしまった。でもやっぱり自分は彼女に会えて良かった
「頑張れ。頑張れ、ルシティカ」
端末との繋がりは完全に切断され、ルシティカにその言葉は届かない
けれど大丈夫だ、だって彼女はジーク”も”と言っていた。あの言葉はルシティカも再会の為に頑張るということだ、だったらこの言葉は届かなくていいんだ。
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