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ぽたり、と体のどこから落ちて来たかも分からない水滴が、磨き上げられた床に水たまりを形成していた
「うぇぇ…びしょ濡れだよ、シローウ……」
「霊基変化の副産物に、見事に巻き込まれましたね」
「ゴッフ所長にも既に怒られたから、お説教はもうやだよー」
「なら私から伝えるべきことも言われているでしょうし、止めておきましょう」
事の発端はルシティカが契約を交わす信長が霊基を変化させた際に漏れた魔力が炎となった結果、作動したスプリンクラーにある
ゲリラ豪雨にでも巻き込まれたのかと目を見張る程の濡れ具合を解消すべく、天草はルシティカをシャワールームへ誘導する。新しい服を用意する間に聞こえてくる鼻歌がご機嫌な様相を呈しているかのようだ
ものの数分でシャワーを終えて出て来たルシティカの、紅潮した頬を見るに十分に温まってきた事が分かる。同時に見過ごせない点が一つ、天草の目に主張を示した
「マスター、まだ十分に髪が乾いていないようですが」
「髪を梳かしていたら、水分もどこか行くから大丈夫!」
「……そこに座って下さい」
「え、シロウが髪を拭いてくれるの? やったー!」
この場合は自分が楽が出来るからとかでなく、好きな人に触れてもらえる事を喜んでいるという解釈で今の言葉は捉えるべきだろう。彼女は良くも悪くも考えている事が分かりやすい
タオルの毛羽の間を縫う水色のグラデーションがかった髪の束が、無地の生地上に模様を描いているようで何とも綺麗なものだと思わず見とれてしまっていた
そんな天草の意識を覗き見るようにじっと彼を見上げる 大きな楕円状の瞳、何か言うでもない代わりに注がれる瞳が何かを訴えかけている状況に気付いたと同時に我に帰った
「どうされました? マスター」
「………………」
「マスター?」
「……キスしてほしい、って言ったら怒る?」
どこまでも果てしなく透き通り、吸い込まれそうだと錯覚を引き起こす夏空色の瞳からとんでもない爆弾が落ちてきた
彼女は今、何と言ったか。キス、キスとはつまり──あんなにもルシティカの考えている事は分かりやすいと知った気でいたというのに、その唐突さに今ではこんなにも翻弄されてしまっている
「突然、ですね」
「私もそう思った!
でもシロウにこうして触れてもらって、大切にされてたら好きって気持ちが溢れて我慢できなくなっちゃった」
彼女の言葉はその瞳と同じようにどこまでも真っすぐで、どんなに強固な防御手段でさえも無意味なものに変えてしまう。その事実が何とも恐ろしく、ルシティカの一番の武器として名高い理由であろう
じっと期待するように見上げてくる瞳の純真さがたまらなく眩しくて、輝きに目が眩んだ隙に少女の感情は天草をも感化してしまった
頭の天辺からかぶったままのタオルの影に隠された唇にそっと天草も唇を落とす。幸福に煮詰まれて蕩けた笑顔が離れ難さに突き動かされ、胸の内へ飛び込んでくるもので青年は慌てて華奢な体躯を受け止める
「えへへ、シロウ大好き」
「あまり煽られると困るので、程々にしてくださいね…?」
少女にとっては精一杯、天草にとっては心を擽られるような非力さを持ってルシティカは彼の背中に回した腕で、ぎゅうぎゅうと密着率を上げようとしていた
これでは自分の言葉なんて到底届いている状況ではないだろうと早々に諦めの域へと至る。無垢に、何も知らない姿は小動物のような愛らしさで心を掴んで止まないのである。
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