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「……この予告状、そもそも本物なのかな」
丁度、一週間前に寄越された一枚の予告状を手に仁奈は首を傾げていた
表面に─Take your heart─の刻印、裏返した逆側には『一週間後と同じ夜、再びお会いしましょう』と記された赤い用紙の予告状──そして指定された『同じ夜』というのが、今日この時刻なのである
「わっ…?!」
スマホで時間を確認している途中、液晶から放たれる光だけが暗闇に淡く浮かび上がる。どうやら停電が起こったらしい
何もこんな時に起こらなくとも。心臓に悪い事をしないでほしいと一人っきりの家で、ブレーカーを上げに行こうとする仁奈よりも一足早く復旧する電源。時間にして僅か1分ほどの出来事
もしかして、と仁奈の心臓が大きな音を立てる
期待に応えるかのように、もしくは頃合いだと好機を得たのか、玄関先に設置されたインターホンが人の来訪を無機質に報せる
覗き穴で来訪者の姿を確認するでもなく、扉を開いた仁奈の行動は一人暮らし同然の家人としては不用心だと言われても仕方がないものだ
ただ漠然に大丈夫だと確証もない勘だけを頼りにした行動の先で彼女は────出会う
「予告状は無事、手元に届いたようですね」
──世間を騒がせる怪盗団のリーダー、ジョーカーと名乗った男が自宅のリビングにいる
マンションの共同通路で住民の誰かにこの邂逅を見られでもしたら、という懸念で彼を連れ込んだのは自分である癖、何とも可笑しな状況だと思わざるを得ない。正直、現実ではなく夢だと言われた方が納得できる気さえした
「ジョーカー…さんは、私の心を盗みに来たの?」
誰かが寄越した質の悪い悪戯では、そう訝しんでいた疑念も目の前に現れた本人が晴らしてくれた
それでも幾つかの疑念は残る。今、彼女の呟いた一言がその全てであった。怪盗団は人の心を盗む、特に悪事を働く人間がターゲットとして選ばれるのだと聞いた事がある。その通りだとしたら、彼が現れたのは自分の心を盗む為かと仁奈は確認する必要があったのだ
「『怪盗お願いチャンネル』で友達に付き纏っている雑誌記者をどうにかしてほしい
友達を助けてという書き込みが、私達の元へ届いたもので」
「!じゃあ、あなた達の目的は私じゃなくて……」
「その記者の件が片付いた為、こうして報告も兼ねて足を運んできたというわけです」
「わ、わざわざどうも…?でも片付けたってどうやって…?」
まさか非合法な手段を用いたのでは、とすっかり血の気が引いた顔が更に青ざめる事態が発生する。部屋中に鳴り響く固定電話の電子音が仁奈のトラウマを刺激したのである
父が起こした精神暴走事件の報道が落ち着いてから、誹謗中傷の電話はなくなった中で粘着し続けたのが今、話にあがっていた記者だった。まさかあの記者がまた、
「……!」
「どうか私を信じて。事態は好転しますから」
──受話器に手を伸ばす事も出来ず、怯えるだけの肩に添えられた手と耳元から注がれた言葉を、不思議と信頼出来る気がした
「も、もしもし…?
……え?!…………い、いえ。もう付き纏わないとお約束してもらえるなら…はい」
通話が終わった事を示す電子音が聞こえてきても、なお仁奈は信じられない気持ちの渦中にいた。頭が混乱して上手く事態を把握できない
母娘を苦しめて来た記者の男が受話器越しに泣いていた。涙ながらに今までの行いを心から悔い、二度と自分達の前には現れない、デタラメな記事の出版も取りやめると約束してくれた
ジョーカーの言う通りに事態は好転し、仁奈の苦痛は唐突に終わりを迎えたのだ
「!」
「ご、ごめんなさい、ほっとしたら気が抜けちゃって……」
やっと苦しい時間が終わったと実感を得た途端、仁奈は膝から床へ崩れ落ちてしまった
父だけでなく、母までが病に倒れて独りぼっちになって以来、久方ぶりに得た安息に戸惑いさえ覚えた
「失礼」
「へ?……っ?!」
どうにか立ち上がろうとする少女を見るに見かねてか、ジョーカーが座り込んだままの体を横向きに抱き上げた
一言、断りをいれられた理由はこうやって近くのソファへ移動する為だったようだ。そしてもう一つ気付いた事がある、怪盗団が悪人の心を盗むというのは真実だったのだ
「……最初の問いに対し、私は嘘をつきました」
「え、う、嘘…?」
「今がその時ではないというだけで、本当は──その心を今すぐにでも手に入れたいと思っている」
握られたままの手を不思議に思っていた、だがこの手は自分が逃げないようにする為の縛りだったらしい
片膝を床についた姿で見上げる瞳がぎらぎらと欲望に輝き、その視線に捉えられたような衝撃がどきり、と仁奈の心臓を騒がせる
「私という怪盗は狙った『オタカラ』から手を引く事はない
……近い内、次の時には必ずその心を頂いていく」
そっと手の甲上に落とされた唇で紡がれた言葉を用いて、とっておきの『予告状』をあなたに。
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