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「暁、何見てんだー?」
「仁奈の配信」
「お、なるほど?だから早めに銭湯にいってさっぱりしてきたって訳か」
「推しの配信を見るのに、小綺麗にするのは常識の範疇だからな」
配信者が見れるのはコメントだけだろ、というツッコミは待ちきれない様子の暁には無粋だろうとモルガナは呑み込んだ
SNS上で予告された配信時刻に秒針が届くまでの距離が、今夜は嫌に長ったらしく感じられる
待ちきれない自分の心がそう錯覚させると分かっていても、世界が自分と彼女の逢瀬を邪魔したいのかと訝しむ程の末期症状に暁は侵されていた
『皆、こんばんは!ニーナの配信にようこそ!』
「……あれ?」
「サウンドオンリー……映像が流れてこないな?」
『ん?トラブルとかじゃないよ、心配させちゃってごめんね
実は皆に見せたいものがあってね、まだカメラを切ってるんだ』
映像は流れずに仁奈の声だけが届く状況に放送事故、もしくは音声・機械トラブルか?と心配の声に溢れるコメント欄に反応がある所を聞くに、彼女も液晶の向こう側に確かに存在しているようだ
ごそごそという衣擦れの音、未だ声だけで姿を現さない仁奈の言葉に高まる期待値、どうやらトラブルに見舞われている訳ではないと安堵する視聴者達の視界へと、前触れなしにリアルが飛び込んできた
『じゃーん!お待たせ!どうかな?
事務所にプレゼントとして届いたの!凄くかっこいいでしょ?』
「オ、オイ!これ、お前の……っていうかジョーカーの怪盗服?!」
「っ……っ…………?!」
「…………お前なぁ……」
配信開始から初めて姿を見せた仁奈は、事務所に送られてきたという衣装とはここにいる暁の隠された一面、『心の怪盗団』のリーダーとしての衣装である
ズボンの部分をスカートにしたり、仮面は付属していなかったりと所々の差異はあるものの、モルガナの目を欺くには不可能な驚異の再現度だ
プレゼントにはしゃぐ推し─仁奈─に言葉を忘れ、一心不乱にスクリーンショットを撮りまくっている事から暁が贈ったものに間違いない
寧ろここで自分ではないとシラを切った日にはモルガナから絶縁状を叩きつけられ、彼は相棒を未来永劫失う事になるだろう
「んな大金送り付けようとすんな!」
「推しへの課金は法律で定められているんだぞ…?!」
「考えてみろよ!いきなり大金を送りつけられたらビックリするし、下手をすると怖がられる!
お前の名前も出るんだろ?あーあ、ネットの中とはいえ、それをした日にはこの子、警戒しちゃうだろうなー」
「それは……」
それはとても困る、非常に困ると暁は眉を寄せる
着かず離れずの距離で彼女の傍をキープし続け、漸く心の距離感が近付いてきたと実感を得て来た所を台無しにしては今までの苦労が水の泡に消える
仁奈を怖がらせるのも、この嬉しそうな笑顔を曇らせるのも自分が望む所ではない筈だ
「……ありがとう、モルガナ。我を忘れていたけど冷静になった」
「おう!ワガハイはお前の相棒だからな!」
【●JOKER:****円
とても似合ってる、次の動画も楽しみにしてます】
「オイコラーーーー!」
『「まるで怪盗団みたいな服でカッコいいね!」
怪盗団?……確かに!言われてみればそうかも!』
全然話を聞いていない、寧ろこれでも金額を落とした方だという小さないざこざを収める鶴の一声だった
世間や大衆には怪盗団の外見などを露出していない為、彼女に贈った衣装から怪盗団に繋がる事はない……そう分かっていてもつい反応してしまったのだ
『「ニーナは怪盗団の事、どう思ってる?」
うーん……私、あんまりテレビとか見ないから怪盗団の事は良く知らないからなー……
へぇ、怪盗お願いチャンネル!こんなのもあるんだ、皆、怪盗団が好きなんだね』
どこの誰か、顔も知らない一人の視聴者の振りによって、あっという間にコメント欄は怪盗団関連の話に塗り替えられてしまった
彼女の配信枠だというのにそっちのけで怪盗団の話で盛り上がるコメント欄に、体の奥からこみ上げる罪悪感を抑えきれない
『今、とても辛くて苦しい現実の中にいる人達がお互いに気遣い合える、励まし合える場所が出来るきっかけをくれた人達って印象かな?
……怪盗団もかっこいいけど、ニーナも負けず劣らず、現実で疲れた皆にとっての憩いの場所を提供していくから見逃し厳禁だぞ!』
「お、怪盗団の話から上手く自分の話題に切り返したな!
しかしお互いに気遣い、励まし合える場所が出来るきっかけ、か……へへ!嬉しいな、暁!」
「ああ、力がみなぎって来るな」
波が引いていくようにして、怪盗団の話題がログの向こう側へと消えていく
暗いものを心に抱えている当事者としての言葉が、自分達の行いを肯定してくれているようであった
今、この時も現実に立ち向かう誰かを後押ししている、そしていつか、この手は周りに回って仁奈に届くのだと暁に確信を抱かせてくれた
『あ、読み上げるのが遅くなっちゃってごめんね!
えっとジョーカー…さん?「とても似合ってる、次の動画も楽しみにしてます」
カッコいい服に負けないくらいの動画を出すから、楽しみにしてて!その時はまた感想を言いに、配信にも遊びに来てね』
「っ……かわいい…!何を差し置いてでも駆けつける…!」
……仁奈の強火オタクとしての一面の方が、『心の怪盗団』の時よりも生き生きしているのではないかという質問はタブー中のタブーなのは言うまでもない。
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