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保健室には不釣り合いな音を、リズミカルに響かせるホッチキス
申し訳なくされながらも猫の手を借りたい程には追い込まれた真から頼まれたのだという書類が、仁奈の手に握られたホッチキスに挟まれ、一冊の冊子へ生まれ変わっていく
彼女の登校を知り、昼休みを利用してやってきた暁が見守る空間。変わり映えのない単調な作業は睡魔を誘うもので仁奈との時間を居眠りで消費されてたまるか、と彼はここでも反逆精神を燃やすのであった
「仁奈、予備のホッチキスってまだあるか?」
「え? うん、探せばあると思うけど…」
「二人でやれば 昼休み中には終わる
それに今ならお供に飲み物やお菓子もあるぞ」
「わー、暁くんってば不良だぁ」
決してそうは思っていない心のこもっていない言葉に対し、それ程でもとおどけてみせた言葉をきっかけに和らぐ空気
早速とばかりに二つ目のホッチキスを探す狭い背中を眺めつつ、教室を出る際に杏から二人でと貰ったお菓子、自販機で買ってきた飲み物の類に感謝する
この二つがなければ、申し訳ないからと断られていた可能性も否定できない。そうなると暁も、何よりも彼女にとっても保健室が途端に気まずい空気が流れていたことだろう
無事にホッチキスを手渡してくる仁奈の居場所は自分も守りたいもの、居心地のいい場所であってほしいと暁は願うのだ
「こういう事をしてると修学旅行のしおりとか思い出すんだよね
私は小学校の時は栃木に行ったんだけど、暁くんは行き先 どこだった?」
「俺は山梨だったかな、遊園地で遊ぶ事に専念し過ぎてお土産にお小遣いが回らなかった」
「歴史にゆかりのある場所とか回って楽しかったけど、遊園地も行ったら楽しかったんだろうな…」
「秀尽は……確か二年なんだっけ、修学旅行」
「そうそう、今年はハワイらしいね!」
その情報は彼女と親しくしており、怪盗団の頼れるブレインである真からの情報だろうと推測できる
何冊目かの出来上がった冊子を積み上げたものとは比例し、減った書類の数。中々の量を真が仁奈へ託す際の表情が目に浮かぶようであった
後輩の現状を知っているからこその自責の念に駆られる表情を浮かべていたことだろう
「……それまでには、教室に上がれるようになっていたらいいな」
──それは昼休みで教室外に出ている生徒達のざわめきの中に落とされた一粒の本音、切実なる想い
ずっとここにいられる訳ではない、ここに登校しているのも一時的な措置、恩情だと理解している
そう知っていても尚 出せずに燻る一歩への嘆きのようなもの。居場所を失ってしまう、という焦燥を痛い程に知る暁の目を奪ってやまない”オタカラ”だった
「な、なーんて!ハワイなんて滅多に行けないし、その時は無理してでも───」
「本当にそう思ってる?」
「…………」
「意地悪な事を言ってごめん、でも今の言葉が仁奈の本心とはどうしても思えなくて」
彼女が抑圧する本音を暴きたい、何よりも自由を知ってほしい
けれど今はその時ではないと知っているからこそ、手を伸ばすべき方向を暁は決して違えない。今、仁奈へ向けるべきは彼女の握り込んだ拳にある
「俺は仁奈に無理なんてしてほしくない
だけど修学旅行に行きたいって、仁奈が一歩前に踏み出したいなら協力は惜しまないから」
「暁、くん……」
「その時は俺を一番に頼って」
それだけで今は十分だから、と暁は戸惑いに揺れる瞳へ笑いかける
どうして、なんて野暮な事を。春の東京駅にて人生の岐路で立ちつくし、誰もが見てみぬフリをした自分に気付いてくれた彼女が奪っていった心と同等のものを手に入れるには、手段を選ばないだけなのだから。
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