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心痛を癒す暇もなく、貼られたレッテルに注がれる嫌悪感に追われる形で郷里より暁は東京へ追いやられた
保護観察はこれよりの一年間が期間。波風さえ立てずにいれば、晴れて自由の身──それでも成人を迎える前に貼られたこのレッテルは一生付きまとうと確定している訳で
憂鬱な気分は東京に降り立っても晴れる事はないまま、電光板に表示された路線図のように絡まった複雑な心境に思わずため息もこぼれてしまう
「……あの、君、大丈夫?」
「え?」
この東京で物好きにも自分の身柄を預かってくれるという人の元まで行こうにも、不慣れな土地という事もあって中々踏み出せない一歩
見かねてのものだろうか。遠慮がちにかけられた声の方へ暁が振り返ってみると、彼の目線よりも低い位置から見上げるようにして少女が苦笑交じりに立っていた
「さっきから何度も改札とここを往復してるの、見かけちゃってね
何か困った事でもあったのかなーって気になって、声をかけちゃったの」
お節介だったらごめんね、と少女は更に眉を八の字型に下げるけれどとんでもない誤解だ。その優しさが今の暁にとって何よりも欲しいものであったのだから──
暁の瞳から音もなく溢れる大粒の、透明な雫に気付いた少女はその目を丸々と見開いて驚きを露わにした。だが彼女は自分の行動が引き起こした事に関して、どこまでも責任感を担う人だった
「突然ごめん、珈琲まで…」
「今日初めて上京してきたんだよね?なら心細くなっても仕方ないって!」
「いや、間違ってはないんだけどそれだけじゃないっていうか
人に優しくされたのなんて久しぶりで、余計に涙腺に来たんだ」
現場となった改札口より少し離れた場所で人波を眺めながら、少女がおすそ分けとしてくれた珈琲缶片手に身の上話に花を咲かせる
東京までの移動疲れ、そもそも癒えぬままの傷心に暁自身も知らぬ内に気が張りつめたままであったのだろう。まさか故郷では得られなかった優しさを前に泣くなんて暁も、ましてや少女も思いもしなかったことだったが
あの場で泣きだした暁に気味悪がって立ち去る事も出来た筈なのに、少女は今もこうして暁と共にいる。尚且つ彼の話にも耳を傾け、時たま会話内に浮かぶ意味深なニュアンスにも触れず、聞き役に徹してくれていた
「何があったかは分からないけど、ここまで頑張ってきたんだね」
その一言が優しさを欲していた心を通じ、じわりと涙を生みだしてしまうものだから、暁は慌てて目尻を袖口で拭う
一度、決壊した涙腺は緩んだままになってしまう事を厄介だと感じつつ、手元に握ったままの珈琲缶の支払いをしていないままだったと思い出す
おすそ分けと称して貰ったものだが、自分を気遣ってわざわざ買ってきてくれたものだと分からない程に落ち目にはなっていないのだから
「…っとごめんね。私、そろそろ行かないと
四軒茶屋までの乗り方はさっき渡したメモ通りだから、気を付けてね」
「え、珈琲代…!あと君の名前もまだ…!」
「──高校二年生の仁奈!
今度、またどこかで会ったらその時に奢って!」
暁の引き留めも虚しく少女──改め仁奈はこの人混みの中に一瞬で姿を隠してしまった
別れ際の一言の中で高校の名前も叫んでいたようだが、ざわめきの中にその部分だけが都合良くかき消されてしまい、聞き取る事は出来ず終い
──自分に向けてくれた笑顔が離れない、彼女が声をかけてくれた瞬間から暁の中で駅構内を行き交う人々はただの風景に、世界は仁奈一人によって彩られた
暁目掛けて落下してきた綺羅星の輝きと衝撃は今もなお彼をくらくらと惑わせ、彼女の存在を夢の出来事と処理しようとする自分が誰よりも許せない
あまりに現実味のない出来事は今も忘れられない笑顔に一目惚れをしたという事実で、何とか暁の中で実体を保っていた
「絶対に、見つけ出す」
別れと出会いの季節、4月の頃
これより後に『心の怪盗団』のリーダーとして注目される事となる来栖暁は仁奈という少女に、心を奪われた。
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