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「参ったなぁ……」
そうこぼした言葉通り、灰音は現状に困り果てていた
────視界を上げた先で空いっぱいに広がる重たい雲、止む気配のない雨粒のカーテン
いつもは通学用の鞄に常備している折り畳み傘を今日に限って、部屋に忘れて出てきてしまったのである。通学時間を直撃している雨は、終日降り続きそうな勢いだ
「……これは、うん」
仕方ないか、と雨宿りの為に滑り込んだ軒先から出る覚悟が彼女の中で固まった瞬間であった
走りに自信はないけれど、遅刻してしまうよりはマシな筈だ。いざ、尋常に──そう決意の第一歩目を灰音が踏み出した時、頭上で雨脚を弾く音に再び視界は頭上へと奪われた
「あれ?……あ、花村センパイだ、おはようございます」
「おう、はよ。んで傘はどうした?」
「学校まで持つかな、降っても鞄に折り畳みがあるから大丈夫かなーって思ったんですけどねぇ」
「なーるほど、その頼みだった折り畳みが入ってなかったってワケね」
「流っ石はセンパイ!話が早いですね!」
「そういう思い込みってあるよなぁ……」
連日 自転車でゴミ置き場、もしくはポリバケツへ頭を突っ込んできた事に懲りたのか、最近は徒歩で通学するようになった花村の指す傘に招き入れられて灰音は学校を目指す
通学路を黒々と濡らす雨は明日まで降り続くようで、マヨナカテレビが映るかの興味で話が盛り上がる。学校が近くなってきたからか、自分達以外の生徒がちらほらと見られる中、周りから注がれる視線がまとわりつく湿気以上に気になった
これと言って可笑しな所は自分にはない筈だ、勿論 隣を歩く花村にも可笑しな点などは見当たらない。ただ自分達は──そこまで言葉を組み立てて、やっと灰音は理解した。理解してしまった事で冷静さを放り出してしまった
「あ、あー……あの、センパイ?
学校まであとちょっとですし?私、ここからは走っていきますね?」
「は?いやいや、思いっきり濡れるだろ!
それにあとちょっとって距離でもねーし……」
「灰音さんってば今日、日直なんですよー
早く行かないとペアの子も待ってるでしょうし、急がないとー」
「だったら、もう少し早歩きで行けば問題ないだろ」
「あー…え、えーっと……」
いつもならこっちが思っている事を先読みさえしてくるのに、今朝に限ってどうして勘が鈍っているのか。早朝だからなのかと自分を引き留める腕が恨みがましく映る
突然、走っていくと言い出した灰音を訝しんでいる様子の花村を説得するには、取り繕った嘘程度では通用しない。灰音とて気付きさえしなければ、彼の好意に甘えていたかった。けれど気付いてしまったからにはそうはいかない
「すみません、日直っていうのは嘘です……」
「だろうな。それは何となく神楽坂の様子を見てたら分かったけどよ……
ともかく突然どうした?何か他に急用があるってんなら、本当に走るなりで付き合うぞ?」
「あ、相合傘、見られてるの何か、照れるなーって思っただけ、です!」
「神楽坂にも『照れる』って概念あったんだな……そっちの方が俺、ビックリだわ」
「お?今日の口滑り一発目はここですか?」
「イッテ!今、割と本気でグーパンいれてきたな?!」
羞恥心を抑え込みながら打ち明けての言いぐさが灰音にカチンと障った、行き場のない怒りが無防備な花村のわき腹をパンチという名で襲ったというのが今の状況である
その甲斐あってか、はたまたそれ以前に花村と後輩である灰音の相合傘が登校風景の一部として溶け込んだのか、周りの視線が気にならないようになっていた
「……まかり間違えて私とセンパイが付き合ってるーみたいな噂が広まったら、嫌じゃないんですか」
「走って行こうとしてた神楽坂は、俺と噂になったら嫌ってことか?」
「質問に質問で返さないでくださいよ、私はセンパイが嫌じゃないのかなって──」
「俺の中で神楽坂はそんな噂が広まっても困らねぇ奴になってるっての」
分かれよ、と雨音にかき消されてしまいそうに花村から発せられる言葉も、しっかりと灰音の耳は拾い上げていた
少し視線を自分からずらした横顔に指した赤色。思わず出かかった「本気にしますよ」という言葉も冗談で言えない程、灰音は彼の言葉に動揺を隠せずにいた。
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