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「今日からお世話になります、神楽坂灰音です
えっと……この前 引っ越してきたばかりで、まだ分からない事だらけですが精一杯頑張ります」
店長の家族特権として新しいバイトが入る事を知っていた為に歓迎ムードの中にありながら、花村は周りとは一線を画した気持ちで目の前の少女を迎え入れていた
聞く限りでは自分と同じく都会から引っ越してきたばかり、春から通う事になっていると聞いた高校名も一緒。ジュネスだけでなく学校でも灰音と名乗った彼女とは先輩後輩の間柄になるようだ
そんな少女を初めて見た時に花村が抱いた第一印象は「気だるげで、どうにもやる気がなさそう」
どうやって面接を採用に持ち込んだか分からない程、やる気が見えなかった
人員を増やすだけであるならば、既に目的は達成している。どうか仕事を増やしてくれるなよとこの時の花村は、完璧に外見だけで彼女の事を判断していた
「小西さん、今って大丈夫ですか?
ちょっと分からない所があって、聞きたい事があるんですけど……」
花村の中で抱いた第一印象を、灰音自身が覆したのは彼女がバイトに馴染み始めてすぐの事である
ポケットにいつも忍ばせているメモ帳には教えてもらった事が細かく文字として羅列し、休み時間に見直している姿を何度も見かけたものだ
奇しくもやる気のない姿に覚えた警戒感から彼女を注視していた為に気付く事が出来た 偶然の賜物というもの。灰音の教育係である小西も太鼓判を押す程の真面目さを、花村は内心で外見詐欺とさえ評していた
「神楽坂さん。小西さんも休憩いったから上がっていいよー」
「じゃあお先に失礼しま──」
「店員さん、この品物ってどこにあるかしら?」
「あ、どの商品でしょうか?」
その日はお客様感謝デーと休日が重なり、午前中の休みが大幅にずれ込んでいた
どうにか捌き終わった列から漏れた客を無下にも出来ず、休憩時間に入れずにいる姿につい口を挟みに行ったのだ
「──お客様!その商品でしたら、こちらでご案内しますねー!」
「あら、そう?悪いわねぇ」
横から客を奪い取っていく姿にぽかん、と開いた口が塞がらない様子の灰音へと花村は目配せで合図した
どうやら休憩時間に入れるように助けて貰えたのだと理解し、慌てて走り去る背中にほっと息をついて見送る。休日を返上し、しかも嫌な顔を浮かべずにシフトに入ってくれている彼女にこれで報いる事が出来ただろうか
「お疲れ様です、花村センパイ」
「うわ、神楽坂?!
あれ?今日のシフト、確かちょっと前に終わって上がってたよな?買い物?」
「あなたの事を待ってました。お礼もまだ言えてなかったので」
「お礼?……あ、もしかして休憩に入る時の?」
食品売り場から屋上のフードコートの助っ人まで、上から下に何度も往復していた為に午後は灰音と会話する余裕すらなかった。灰音側も同じようなものであろう
そこそこ体力のある花村でさえ、体に溜まった疲労を感じずにいられないのだ。小柄な彼女であるなら尚更、さっさと帰宅して横になりたいだろうに、わざわざ律儀にも感謝を伝える為に待っていてくれたという姿がつかの間、疲れを忘れさせてくれた
「気にすんなって!
神楽坂がバイトに入ってくれて、助かってるのはこっちだしな。お互い様だよ」
「そういうもの、なんですかね?」
「おうよ!でもお礼言う為に待っててくれたのは嬉しいよ、ありがとな」
「お礼とかはちゃんとするものだって、おじいちゃんやおばあちゃんに言われてるので」
「へぇ、おじいちゃん、おばあちゃん……
ジュネスでバイトするって言った時、反対とかされなかったのか?地元の人は……ほら、あんまり歓迎ムードじゃないみてぇだしさ」
大型スーパーが出来て便利になったと感謝される一方で、古くから八十稲羽の市場を支えて来た一部の人間から歓迎されていないと知っているから出た言葉であった
灰音に聞かせるような話でもないのに、この日は疲れ切っていたからか、思わずそんな事を訊ねていた
実際、花村がジュネスの店長の息子だと知った大人から陰口を叩かれる日も少なくはない。自分達を歓迎していない人々の多くはどうやら老人ばかりらしく、この後輩の祖父母はどうなのかと心配になったのだ
「寧ろ花村センパイや小西センパイみたいに優しい人に教えてもらえてよかったね、って言ってもらえましたよ」
「そ、そっか…」
「……実際、私も花村センパイ達がいてくれて良かったって思ってますから
だから明日以降も色々とバイトでの事、教えてくださいね」
また明日、とバイト終わりの灰音を迎えに来ている人がいるのだろう。駐車場へ去っていく彼女に自分は何と言って送り出したかも思い出せず、花村はジュネスの入り口で立ち尽くしていた
まだ出会って間もない、数日の縁である彼女の言葉は響き以上に思いやりの気持ちで溢れていて、外見詐欺だと花村がこっそり評価する灰音らしさを感じられた。出会った日数の少なさなど、彼女の前ではないに等しい概念なのだろう
「センパイ」
「っどわーーーーーーー?!」
「うわ、びっくりした
おじいちゃんにセンパイの事を話したら送っていくって言ってて、良ければどうですか?」
「あ、それ誘いにわざわざ戻ってきてくれたのね……」
帰ったと思っていた矢先、建物の影からにゅっと現れる唐突さも含め、これからこの後輩に振り回される日々が待っているなんてこの時の花村は見通しも出来なかった。
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