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本来は交わる事のない時間軸、人物達を一つ残さず、記憶として有している自分はある種で”特別”なのだろうか──なんて灰音は観測者を気取ってみる
華やかに飾り付けられた校舎で毎日開かれる文化祭、あちこちに設置されている露店の一つで買ってきた紙コップの中身はとうの昔に空っぽに。それでも灰音は壁を背もたれにストローを吸う行為を止めはしなかった
「お前、何で氷を延々と啜ってんの…?」
「え?……うわあ、本当だ
アンニュイな気分に浸ってて、全然気付かなかったですわー」
「アンニュイって……あー、なるほど」
「いやはや、お似合いっすよね」
露店を回る一組のカップル、だろうか
我らが自称特別捜査隊のリーダー・鳴上悠と同じく、特別なペルソナ能力を有し、特別課外活動部のリーダーの青年が藤色の長い髪を持つ少女と仲睦まじく散策している光景は色鮮やかで絵画的とさえ捉えられる
迷宮の探索時における活動部のリーダーである青年の発令に対する瞬発力、育まれてきた絆、培ってきた経験の違いの差は一目瞭然
青年からも「良く無理をするから目が離せない」と少女に対する見解を聞かせてもらったものだ、持ちつ持たれつ、お互いがなくてはならない特別な間柄なのだろう
食い入るように、あるいは魅了されたかのように二人へ熱心に視線を注ぐ灰音の事情を知っているからこそ、花村の心境は当の本人を差し置いて穏やかではいられなくなる
この後輩は、神楽坂 灰音は──あの青年の事が好きだったのだ、好意が原因となって臆病から行動できなかった。その反対に青年に好かれよう、支えようと行動した彼女と青年が結ばれるのは必然に等しい
灰音は恋に破れたものの好意を全て捨てきれずにいると知っているからこそ、もしかしてという焦燥に花村を追い立てるのだ
「神楽坂は、さ
やっぱ、まだアイツのことが好きなままなのか?」
「……ははーん?」
「何だよ、その笑顔!嫌な予感しかしねぇんだけど?!」
「あは、花ちゃんセンパイは灰音さんに遠慮を知らないんすねー
月高の人達と一緒に行動するようになって、そわそわしてたのはそれが原因だったと?」
「え、俺、そんな感じだったの…?やだ、分かりやすすぎ…?」
それは男として恥ずかしすぎるのではないか、嫉妬が駄々洩れだったという真実に揺るぎなく
突き付けられた真実が男気とやらの深い部分を抉る耐えがたい恥辱に花村は咆哮する。彼の相棒がこの光景を見れば、そっとしておこうの一択を取るだろうと簡単に想像できた
花村が己の心と向き合っている姿をあまり見ないように配慮しつつ、灰音はどうやっても戻りはしない過去を目前の二人へ重ねる
特捜の面々に出会う前の自分ならきっとこんな風に直視なんて出来なかった、それ程までに──あの人の事が好きだったのだから
「まあ二年間引きずってたんですし、そう簡単には片付けられないよねって話っす」
今ではすっかり吹っ切れた、なんて虚勢を張ってカッコつけたい所ではあるが、嘘をついた所で空しいだけだと灰音は花村にだけは素直な胸の内をさらけ出した
いつの間にか落ち着きを取り戻していた彼はこの本音を聞き、どんな反応をするだろうか。未練がましいと呆れるだろうか、それとも怒るだろうか。どっちに転んだにせよ、笑ってはくれない事だけは確かだろう
「そりゃそうだよな。俺だって小西先輩の事、しばらく引きずってたんだし
お前の場合は二年間もずっと好きだったんだから…って考えれば、分かる話だったな。ワリィ」
「……私の事、責めないんですか?」
「は?神楽坂が今、自分の中でケリをつけようとしてるのを分かってるのに何で責めなきゃいけないんだよ」
「…………」
「それに何だかんだで今の神楽坂に一番好かれてるのは俺だって自信があるからな!
だからお前の中で整理がつくまでは待つよ、時間がかかっても待てるんじゃねーかな」
自分から見ても悪癖だと思う。誰かと関係性を深めるのが怖くて、信じてもいいのかとその人を試すような言葉を羅列してしまう。頭を撫でるこの人に対しても、いつもそうだ
だというのに花村陽介という人は灰音の悪癖ごと受け入れてしまうのだから、悪癖の面目がないともいえる。真っ向勝負気質で、どこまでも約束を守ってくれる
待つと決めたらとことん──そんな彼を灰音は好きになってしまった、心を預ける事にした
「恋愛なんて懲り懲りとか考えてたのに」
「神楽坂の事に関しては諦めないって事も決めちゃったんだよなー、これが」
「……あー、もう!花村センパイを好きになっちゃった責任、ちゃんと取ってくださいよね」
「おう、任せろ!」
課外部のリーダーへの好意が過去のものとなっていく、花村への好意に形を変えていく
気恥ずかしくてやけっぱちで叫んだ言葉さえ、笑顔で受け止めてしまう姿は灰音の惚れた弱味をいかんなく突いていた。
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