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「……なあ、もしかしてだけど神楽坂って剣道やってた?」
「はい?突然何です?」
それは閑静な田舎町で発生した連続殺人事件をきっかけに、生み出された日課からの帰り道での呼びかけ
前触れもない、予期しない投げかけに瞳を瞬かせるばかりの灰音。直近までいたテレビの中、異世界に住む凶暴なシャドウと対峙する彼女の姿を花村はその脳裏で再生する
「相棒は力強い感じなんだけど、お前のは型にはまった綺麗さがあるなーって感じてよ」
灰音は特捜のリーダーである鳴上と同じく武器種、つまりは日本刀を手にシャドウと戦う
同列の武器だというのに彼女の太刀筋は花村が語ったように型にはまった美しさが備わっており、粗削りでも攻撃を成立させる鳴上とは明確な一線を画していた
使い手が変わる──たった一点の違いでこれ程までに戦い方も変わるのか、と受けた衝撃から花村は『もしかすると灰音は剣道経験者なのでは』という仮説を立て、この帰り道 灰音と二人っきりになったタイミングで訊ねてみる事にしたのである
「
それでシャドウと戦うならって、また本とか読み直したんですよね」
「マジかよ!本を読み直しただけであそこまで…」
「ふふん。灰音さん、基本は真面目ですもん
少し齧っていた時期もちゃーんと、真面目に、やっていたので体が覚えてたんでしょうね」
「あー、まあお前、スイッチが入りにくいだけで一回入るととことんだもんな」
「自分の利になる事ならすぐに入りますよ、……多分?」
「多分って!しかも疑問形だし!信用ねぇな~」
この後輩と来たら、気だるげな態度、抑揚がはっきりとしない口ぶりのせいで『やる気のない奴』と周りからレッテルを貼られがちなのである。そこがミステリアスでいいと感じる者もいるらしいが あくまでもそれは少数派の意見
だが今、灰音自身が口にした通りに自分の利──もしくは徳となる事であれば、幾分かはやる気を見せるし、その時の彼女が平時以上に頼もしいのを知っている花村からすると勿体ない、その一言に尽きる
どうしてそこまでやる気のないフリをして、周囲を欺くのか
面倒事を振られない為の自己防衛か、それにしてはレッテルの多さの方が不利となってはいないか、必要以上に灰音という人間の評価に傷をつけているのではないか
最大限の気遣いが込められた、自分の世話を焼き続けてくれる先輩からの問いかけに灰音は最初のように瞳を瞬かせると──
「真面目にやって、他の人には出来ない事が出来るようになってかかる期待なんてしんどいだけですもん」
「こっちは必死、我武者羅だって言うのに、周りからすると出来て当たり前」
「──だから全力なんて、割に合わないって思うんです」
──河川敷の向こう側から二人の会話を覗く太陽の日差しも相まって、灰音の胸に巣食う昏い感情が色濃く滲み出す答えであった
まるで過去、彼女自身がその立場となって思い知ったかのような体験談。あるいは自分の分までもを背負わせた誰かへ向けた懺悔。正解がどこにあるかは分からず、八十稲羽に来る前の事を必要以上に語りたがらない灰音からこれ以上の話を聞けはしないだろう
花村にはどれが正解と当てはまるかは分からないものの、灰音には全力になって後悔した過去があるという事実だけを拾えた。今はそれを聞けただけでも十分だと自分の出方を待つ生意気な後輩の頭を乱暴に撫でつけ、花村は気持ちを落ち着かせる手段へ打って出た
「ちょ、な、なんですか、!」
「これ以上、小西先輩みたいな被害者を出さないように
一緒にシャドウと戦っている神楽坂は俺達と同じくらいに全力だろうが」
「……センパイは、私の事を買いかぶりすぎなんですよ」
「全力が割に合わないってお前の考えは別に否定しねぇよ。だけど、全力じゃないって発言だけは否定しとく
すぐにだるい、やりたくなーいって言う奴だけど、神楽坂は口だけじゃないっていうの知ってるからさ」
そう、この灰音という後輩はすぐに自身を数々の虚言で覆い隠してしまう、一瞬の瞬きすら惜しい程の速さというやつで
あたかも口先だけの言葉が自分の真実であり、全てだと言わんばかりだが、実際の彼女は自分を見せたがらない秘密主義者、どこまで他人を信じていいのか分からない臆病者でありながら──本心では誰かの傍にいたい、孤独を嫌う寂しがり屋なのだと花村は知っている
心を開いた人間が欠ける事を嫌い、怖がる性分を知っているからこそ、花村はこの後輩の世話を焼かずにはいられない。自分を卑下する言葉を灰音自身が使うならとそれ以上の肯定の言葉で、彼女の心を満たしてやりたいと思うのだ
「そこまで買って貰っているのに応えない、なんて失礼ですよね
…うん。花村センパイ、もし困った事があったら、真っ先に私を頼ってくれていいですよ」
「全力は割に合わないんじゃなかったのか?」
「まあ、限定的にならいいかなって今、考えを改めました
でも覚悟してくださいね、センパイ?私の”全力”は高いんですから」
まるで不思議の国のアリスに登場するチェシャ猫のように、悪だくみを企んでいるかの如き笑顔
けれどここまでの会話のおかげで灰音の心へと一歩近付いた、その確かな実感で機嫌を良くした花村はお構いなしに『その時が来たら頼むわ』と彼女の全力へキープをかけるのであった。
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