「 」
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その日、何かに呼ばれるようにして僕は目が覚めた
暦上では春と言ってもまだまだ寒さが残る二月では太陽の目覚めも遅く、外も薄ら闇に包まれたまま
起きた拍子に開いてみた携帯画面の液晶を確認すれば、肺を突き刺すような冷気にも納得のいく時間だった
二度寝をしようにも珍しく目が冴えていて、体に気だるさが残っていない朝なんて久しぶりで、自覚出来る程に妙に気分が高揚していた
……いや、そもそもそんなに学校生活で疲れるような事なんて授業や部活以外にあっただろうか?
自分の思った事に少しの引っ掛かりを覚えながら、見てみぬフリをしつつ順平達を起こさぬようにとロビーを抜けた足で寮の外を散策する
数時間後には人々の目覚めと共に活気に満ちる前の街の静けさは心地よさを与えてくれる
実は僕はまだ眠っていて、ここは夢の中だと言われても受け入れてしまいそうな穏やかさに満ちていたのだ
「──────」
巌戸台分寮から少し離れた場所で、出会った女の子の姿に足が自然と歩みを止めてしまう
彼女が呼吸をする度、胸元で揺れる赤いリボン。この辺りでは月光館学園以外では見当たらない制服の形と長い藤色の髪の女の子だった
制服をまだ着てもいない僕とは何とも対照的な姿につい見惚けてしまい、時間経過によって熱がこもった視線にとうとう僕の存在が彼女に気付かれてしまう
「おはようございます。朝、早いんですね」
「……あ、目が、冴えちゃって」
「あはは、そういう日もありますよね」
「君はどうしてこんな時間にここへ?」
「私も変な時間に目が覚めたおかげで、ついここまで来ちゃいまして…」
……何故だろう、今日初めてこの場で会った筈なのに、この優し気な瞳を僕はずっと前から知っている気がする
バイト先、学園、どこかしらで彼女とすれ違ったからそう思いこんでいるのだろうか。何せ同じ学園に通う生徒同士だし、なくもない話だろう
────本当に? 本当に、この気持ち悪い認識のズレを見てみぬフリをしたままで、僕は後悔しない?
二月に入ってから、隣の空席に言い表わせない寂しさを感じる理由を知りたがっていたじゃないか
ここで目を反らしたままでは順平でも岳羽でも、山岸でさえ埋めきれない空白、僕の隣にいてくれた”誰か”を永遠に失う事になるぞと直感が脅しをかけている
思い出せ、記憶を辿れ、引っ張り出せ
去年の四月に巌戸台へ独りで引っ越してきた時には思いもしなかった程の出会いに恵まれた僕は、巌戸台分寮で岳羽と桐条先輩に”一緒に”出迎えられて……”一緒”?
そうだ、あの満月の夜に僕と”キミ”はペルソナ能力に目覚めて、影に包まれた世界を一緒に駆け、抜けて、
ぱちり、と音を立てて、僕の探し求めていたパズルのピースが最後の枠に嵌って完成する
誰もいなくなった隣に感じていた物悲しさも、寂しさも全部、全部──あの審判の日にキミがいなくなってから、影時間にまつわる記憶をなくした僕自身が自分へ発していたシグナルだったんだ
「……どうして、思い出しちゃうんですか」
今にも溢れそうな程の、大粒の涙で瞳を覆うキミ
僕が影時間にまつわる記憶を思い出さないようにと望む口ぶり、ニュクスを守る為の結界となった後でも他人を気遣う言葉ばかりの姿に、こっちの涙まで呼び起こされるようだ
「全部、全部、今日のことも夢だったって、忘れてください」
「夢、なんかじゃない、キミはここにいる」
「今を生きる有里くんに、必要ないものじゃないですか」
「……っ 必要ないなんて決めつけるな!」
思考が、声帯が、目尻が熱くて仕方がない。終わってなんてない、勝手に終わった事にされてたまるか
朝日が昇る、キミを夜に置いてけぼりにしたまま、世界が今日も素知らぬ顔で新しい一日を迎えようとしている
そんな話があってたまるものか、忘れてなんてやるもんか、言いたい事だけ言って消えようだなんてそんなの許せない
夜に閉じ込められたままは嫌だってキミが言ったんじゃないか、他ならぬキミが──星雫さんが!
彼女と駆け抜けた夜の記憶が流れ込む、その勢いのままに伸ばした筈の手が空を滑る
掴むものを失った体は前のめりに転ぶだけで何も掴めやしなくて、溢れた涙に詰まった虚しさを嘲笑うかのように太陽が目を覚ましていた。……もう彼女はどこにもいやしない、命の溢れる世界のどこにも
「星雫、……っ」
二月某日
世界は僕から、星雫という最愛のひとを奪っていった。
1/2ページ