HAPPY COLOR VARIATION !

「あいぼう、たんじょう日おめでとう」
記憶はいつだって輝いていて、色鮮やかにボクの心を照らす。

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「ん……」
六月に入り、暑苦しいと感じてきた制服は衣更えによって身軽なものへと変わった。HR後、隣のクラスの友人を屋上で待っていた遊戯は、つい眠ってしまっていたらしい。
肌を撫でる風が心地好く、見ていた夢は昔の大切な思い出。
「も、一人の……」
「ん。起きたか、相棒」
「……っ!?」
殆ど寝言に近い言葉に返事が返ってきた事に驚いて、今の状況を把握しようと目を開けてから更に驚いた。
--近い! という声を飲み込む。今の遊戯は、待っていたはずの相手に、所謂膝枕をされていたのだ。
放課後とはいえ、太陽が長く顔を出すようになったこの時期の屋上で居眠りなんて出来たのは、この彼が陽の光を遮ってくれていたからなのだろう。もうすぐ夕日に変わる太陽が、彼-武藤《遊戯》の横顔を照らして綺麗だった。

「もう一人のボク、来てたなら起こしてくれてよかったのに」
「気持ち良さそうにしてたからな。もうちょっと寝ててもいいんだぜ」
起こそうとした身体を、逆にそのまま沈められてしまった。こうなったら暫く解放して貰えないのだろうという事がこの数週間で分かったので、遊戯は大人しく《遊戯》の膝を借りる事にする。
寝ていてもいい、と言われたがそんな訳にも行かず、遊戯は下から《遊戯》を見上げた。


武藤《遊戯》は、五月の連休明けに遊戯の隣のクラスに編入してきた生徒だ。親の転勤の都合で微妙な時期に童実野町に引っ越して来たのだが、彼が童実野町に来るのはこれが初めてではなく、昔は遊戯の家の近くに住んでいた幼なじみだったのだ。
武藤遊戯と武藤《遊戯》。同姓同名の二人は仲が良く、小学校低学年の時に《遊戯》が引っ越してしまうまでいつも一緒に遊んでいた。

--あいぼう、たんじょう日おめでとう--

先程見ていた夢はその時のもので、今までも何度か繰り返し見てきたものだ。
同じ名前だという事が嬉しくて、お互いが特別なのだという想いで呼んでいた「相棒」、「もう一人のボク」という呼び名。
数年振りに再会した友人が変わらずに自分を「相棒」と呼んでくれた時は本当に嬉しかった。

「…どうした? オレの顔に何か付いてるか?」
「ううん。君って、ボクの事甘やかすようになったなぁと思って。昔はここまでじゃなかったのに」
「ははっ、そうだな。数年間、ずっと会えなかったからな。……でも、甘やかしてるっていう訳じゃないんだぜ。オレがしたいと思った事をしてるだけなんだ」
じっ、と遊戯を見詰めるその瞳に熱が入る。刹那に見せるその色は、昔と違う遊戯の知らないもので、そんな《遊戯》を見ていると胸の奥がチリチリと焼けるような感覚がする。
「ずっとお前に会いたいと思っていた。特別な日も、そうじゃない日も、いつだって傍に居たいって。……嫌か?」
「まさか! 嫌な訳ないよ。ボクだって、ずっと君に会いたかったんだ」

嬉しそうに目を細める《遊戯》の顔が、夢の中のものと重なった。

「相棒、今日誕生日だろ? …おめでとう」
「……ありがとう」

夕日で照らされた頬の朱が綺麗で、目の前の世界はキラキラと輝いている。
これから君と歩む世界は、どんな色をしているんだろう?
目移りしてしまいそうな鮮やかな毎日を、これから君と過ごせる事が何より嬉しくて、気が遠くなるくらい幸せだと思ったんだ。


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