First ラストチャンス
「誰から貰った!?」
自分でも驚く程、乱暴に肩を掴んでしまったと思う。大きく見開かれる目を認識しながら、それでも《遊戯》は止まれなかった。
「えっ!? 何!?」
奪われたくないと思った。恋人でもなければ想いを伝えてすらいない。当然、自分のものであるはずがない遊戯に、せめて他の誰にも渡したくないという勝手な思いだけで詰め寄ってしまう。
「そのチョコ、本命だろ。誰から貰ったんだ!? 返事は!? したのか……!?」
きっと自分は今、笑える程に必死な形相だろう。いや、笑えるものなら笑いたいんだ。相棒が誰かのものになってしまいそうな事が、こんなにも……、泣きたくなる程、辛い。
「……えぇっ!?」
《遊戯》が何を言っているのか漸く理解した遊戯は、先程よりも大きく首を横に振った。
「違うよ! コレ、君のなんだ!」
わたわたとリュックから箱を取り出し、両手で持って《遊戯》の方へと勢いよく差し出す。
瞳で真っ直ぐ相手を捉えて、大きく息を吸った。何かを決意した表情に、《遊戯》は今までの焦燥を忘れて惹き込まれる。
「もう一人のボク! これ……ボクから君への、逆チョコです!!」
響いた声は間違いなく《遊戯》の耳にも届いたが、その言葉を理解するには、今の《遊戯》には数秒必要で。
「逆、チョコ?」
もちろん、言葉を知らない訳じゃない。意味も知らない訳じゃない。そして、自分に向って差し出されているその箱がどう見ても本命だと思っていたのは紛れもなく自分自身だ。
「……っ!!」
最初に箱を見た時とは違う響きで、再び心臓が大きく跳ねる。耳まで瞬時に真っ赤に染まって、また動けなくなった。
何よりも欲しかった遊戯の想いが今、自分へと向けられている。信じられない気持ちだった。
「やっぱり、要らない……かな…?」
反応の無い《遊戯》に、自分の気持ちは受け入れられなかったのだと解釈した遊戯がポツリと呟く。ちょうど、その言葉に重なるように次の授業開始を報せるチャイムが鳴った。
それぞれの教室から離れた場所へ来ていた為に、すぐ戻らなくてはならない。遊戯は泣きそうになる己を叱咤して続けた。
「返事は分ってるから、大丈夫。……ね、もう戻らなきゃ」
「待ってくれ!!」
踵を返そうとする遊戯を、無理やり引き止めて腕の中に閉じ込めた。咄嗟に取った行動だが、今、この手を離す事だけは絶対にしてはいけない。武藤遊戯という自分の相棒の性格上、玉砕したと思った相手にもう一度想いを告げるなどという可能性は、非常に低いのだ。だから今、この瞬間。これが……《遊戯》に残された、最初で最後のチャンス。
「も、一人のボク……?」
隠しようのない胸の音が伝わっているだろう。熱い程赤くなったままの頬に遊戯が気付いて、不思議そうな顔をする。そのままオレの想いにも気付いてくれたなら、なんて思っているようじゃ話にならない。
あぁ、人に好きだと伝えるのは、こんなにも勇気のいるものなんだな……。
「相棒」
「……うん」
「----」
遊戯の見せた笑顔はとても幸せに溢れたもので、それを見た《遊戯》の表情も、とびきり甘く、優しいものだった。
終
自分でも驚く程、乱暴に肩を掴んでしまったと思う。大きく見開かれる目を認識しながら、それでも《遊戯》は止まれなかった。
「えっ!? 何!?」
奪われたくないと思った。恋人でもなければ想いを伝えてすらいない。当然、自分のものであるはずがない遊戯に、せめて他の誰にも渡したくないという勝手な思いだけで詰め寄ってしまう。
「そのチョコ、本命だろ。誰から貰ったんだ!? 返事は!? したのか……!?」
きっと自分は今、笑える程に必死な形相だろう。いや、笑えるものなら笑いたいんだ。相棒が誰かのものになってしまいそうな事が、こんなにも……、泣きたくなる程、辛い。
「……えぇっ!?」
《遊戯》が何を言っているのか漸く理解した遊戯は、先程よりも大きく首を横に振った。
「違うよ! コレ、君のなんだ!」
わたわたとリュックから箱を取り出し、両手で持って《遊戯》の方へと勢いよく差し出す。
瞳で真っ直ぐ相手を捉えて、大きく息を吸った。何かを決意した表情に、《遊戯》は今までの焦燥を忘れて惹き込まれる。
「もう一人のボク! これ……ボクから君への、逆チョコです!!」
響いた声は間違いなく《遊戯》の耳にも届いたが、その言葉を理解するには、今の《遊戯》には数秒必要で。
「逆、チョコ?」
もちろん、言葉を知らない訳じゃない。意味も知らない訳じゃない。そして、自分に向って差し出されているその箱がどう見ても本命だと思っていたのは紛れもなく自分自身だ。
「……っ!!」
最初に箱を見た時とは違う響きで、再び心臓が大きく跳ねる。耳まで瞬時に真っ赤に染まって、また動けなくなった。
何よりも欲しかった遊戯の想いが今、自分へと向けられている。信じられない気持ちだった。
「やっぱり、要らない……かな…?」
反応の無い《遊戯》に、自分の気持ちは受け入れられなかったのだと解釈した遊戯がポツリと呟く。ちょうど、その言葉に重なるように次の授業開始を報せるチャイムが鳴った。
それぞれの教室から離れた場所へ来ていた為に、すぐ戻らなくてはならない。遊戯は泣きそうになる己を叱咤して続けた。
「返事は分ってるから、大丈夫。……ね、もう戻らなきゃ」
「待ってくれ!!」
踵を返そうとする遊戯を、無理やり引き止めて腕の中に閉じ込めた。咄嗟に取った行動だが、今、この手を離す事だけは絶対にしてはいけない。武藤遊戯という自分の相棒の性格上、玉砕したと思った相手にもう一度想いを告げるなどという可能性は、非常に低いのだ。だから今、この瞬間。これが……《遊戯》に残された、最初で最後のチャンス。
「も、一人のボク……?」
隠しようのない胸の音が伝わっているだろう。熱い程赤くなったままの頬に遊戯が気付いて、不思議そうな顔をする。そのままオレの想いにも気付いてくれたなら、なんて思っているようじゃ話にならない。
あぁ、人に好きだと伝えるのは、こんなにも勇気のいるものなんだな……。
「相棒」
「……うん」
「----」
遊戯の見せた笑顔はとても幸せに溢れたもので、それを見た《遊戯》の表情も、とびきり甘く、優しいものだった。
終
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