黄色までの距離


「相棒、信号変わるぜ。行こう」
当然のように差し出された左手を握って、青信号が点滅する中、走った。

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休日である今日を二人で過ごす事は前から決めていたけれど、天気が良かったから気の向くままに遊び回る事にした。
気になったお店に入って欲しい物を買って、お腹が空いたらご飯を食べて、ゲーセンで遊んで。
二人で居るとあっという間に時間は過ぎて、いくら一緒に居たって遊び足りないよね。

信号の向こうに喫茶店を見つけ、どちらからともなく入ろうかと提案する。
点滅し始めた青信号を見ると君はボクに手を伸ばして。
ボクはその手を取って。
走っている間、ずっとその綺麗な指を見つめていた。

「いらっしゃいませ。二名様ですか?」
休日の午後の店内はそれなりに混んでいて喫煙席しか空いていなかったけど、窓際の陽当たりのいい席に案内してもらえた。
小さな席に向かい合って座ると目を細めて微笑うもう一人のボクと目が合う。
何だか心臓の音がうるさいのは、さっき走ってきたから…という理由だけじゃない。
「相棒、何飲む?」
「えっと…やっぱコーラかな」
横に置いてあったメニュー表を広げて聞いてきた君の、仕草全てが綺麗でドキドキするなんて今更だ。でも改めて意識すればする程、落ち着かなくなって視線は泳いでしまう。

カチッ
その時、斜め前の席から小さく音が聞こえて来た。見ると、男の人がライターの火を点けて煙草を咥えているのが見える。

あ、あの人の指…もう一人のボクに似てるかも。

煙草を持つ細い指が、さっきまで握っていたもう一人のボクの手と重なった。
…ううん。もう一人のボクの指の方が、もっと細くて長いかな。
「…どうした?」
ボクの視線の先に気付いたもう一人のボクの声が、いつもよりトーン低めで不機嫌そうで、ボクは慌てて答える。
「えっ、と…。あの人、何かカッコイイと思って」
「!!」
「…? …!あ、いや…指がっていうか!!」
その男の人を視殺してしまいそうな勢いの彼を見て、ボクはますます慌てた。
「煙草が、だよ? カッコイイなぁって!ボクも大人になったら吸っちゃおうかな~、なんて。あはは…」
「悪いが似合わないと思うぜ」
やっとこっちを向いてくれた事に安心したけど、バッサリ斬られた。
うぅ、何もそんなに断言する事ないじゃないか。
「それに…」
「?」
「煙草吸う暇なんか与えないけどな」
そう言って彼は、さっきまで持っていたメニュー表でボクらの横に小さな壁を作ったかと思うと、素早くボクにキスした。
「口寂しい、なんて思わせないぜ」
至近距離でニヤリと笑われて、ボクは真っ赤になる。
「なっ、君って奴は…!!」

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