Silent nightには程遠い

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午前11時に開店する為、遊戯は30分前にバイト先に到着した。店主から一日の流れをざっと聞き、準備に入る。
まずは更衣室で例のサンタ服に着替え、その後食べ物を扱うお店なのだからと念入りに手を洗った。足がスースーして落ち着かなかったが、腹を決めて店へと出る。

腹を決めたつもりだったのだが、ショーケースとガラスを磨き上げてそれに映った自分の姿を見た瞬間に心が折れた。


知り合いには絶対、ぜーったい会いたくない…!!


開店10分前に自分の持ち場である店頭へケーキの箱を運んで行く。ノルマ数を言われてはいないが、この山を少しでも小さくするのが今日の遊戯の仕事だろう。
「よしっ!」
ジャスト11時。
遊戯はとびきりの笑顔で仕事を開始した。

「いらっしゃいませー! クリスマスケーキはいかがですか~?」
大抵の人は、もうケーキを予約していて当日売るのは厳しいのではないかと遊戯は思っていたが、予想よりも早いペースで箱が捌けて行く。
特に遊戯の笑顔と柔らかな対応は受けが良く、男の子が女サンタの恰好をしている事の面白さも相俟って主婦層に良く売れた。
…たまに本気で"お嬢さん"と呼ばれる事もあったが。

今が何時なのか確認する暇もない程働いていた甲斐あって、気付くとあと10箱程度しかケーキは残っていなかった。
これはかなりいいペースではと嬉しくなり、自然と声のトーンも上がる。
作業をしていると目の端で人が立ち止まった事が分かり、"いらっしゃいませ"と声を掛けた。くるりと振り返った瞬間に赤いスカートが揺れる。
「天使……?」
「あっ、もう一人のボク」
見慣れた顔が間近にあって思わず彼の呼称が口から滑り落ちたが、何故彼が驚いているのかを悟り、瞬時に真っ赤になった。
「って、もう一人のボク!? どどど、どうしてここに…!!」
バッ、とサンタ姿を隠そうとしたが自分を抱きしめるような形になっただけで大して意味はなかった。
「え、あ…。ケーキを買いに来たんだが、思わぬ所で天使を見付けてしまって…」
「何、言ってるの!?」

あんなに見られたくなかった恰好をよりにもよって《遊戯》に見つかってしまうなんて、とジタバタしている所に声を聞き付けた店主がやってきた。
遊戯と《遊戯》を交互に見、そして店頭の箱が残り少ない事を見て取ると"今日は本当にありがとう。もう上がって良いよ"と遊戯に告げた。
「え? でも」
「初めてだったのに良く頑張ってくれたし。あとこれだけの数なら自分でも捌けるよ。お昼の休憩も無くてゴメンね。本当に助かりました」
「店長さん…」
「お友達待たせちゃうのも悪いし、着替えておいで。その間に今日のお給料用意しておくから。それと、昼食代わり…にはならないだろうけど、そこの箱一つ持って帰りなさい」
「えっ、そんな訳には」
行かないです、と言おうとしたが、店主はもう聞く耳を持たなかった。
「…ありがとうございます」
ペコリ、と頭を下げると店主は笑って店内へと戻る。
「もう一人のボク、ちょっと待っててね。着替えてくるから一緒に帰ろう?」
「いや、その前に相棒。オレにもこの箱一つ売ってくれないか?」
「…?」
「初めてのバイトだろ。お前の仕事に少しでも貢献したいんだ」
「…ありがとう、もう一人のボク!」

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お互いに一つずつケーキの箱を持って《遊戯》の家へと向かう。
遊戯の中では明日一緒に遊ぶつもりだったのだが、元々は今日も一緒に居るつもりだったので正直嬉しい。"最近、相棒と居る時間が少なくて淋しかった"と呟かれれば尚更だ。
"ボクも"と返せば頬に軽くキスをされて、その恥ずかしさを隠す為に別の話題を振った。

「二つもケーキあるよ。どうするの?」
「帰ってから食べようぜ。一つは普通に」
「もう一つは? 明日?」
「いや、今日だな。相棒の体に塗りたくってケーキプレイなんてどうだ?」
「なっ!? …ダメ!」
「ちゃんとキレイに舐め取るぜ?」
「ダメったらダメー!!」


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