Silent nightには程遠い

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事は、遊戯が今月の初旬に城之内から相談を受けた事から始まる。
「遊戯! 悪ィんだけど、ちょっと頼まれてくんねぇか」
そう言って頭を下げた城之内から打ち明けられた話というのは、大体次のようなものだった。
今月の24日に、妹が自分に会いに童実野町まで遊びに来る事。
しかしその日は、知り合いの店で一日中バイトをする事が決まっていた事。
誰か代理で入ってくれる人を探していたが見つからず、それでも滅多に会う事の出来ない妹には会いたいという事。
「分かった! それじゃあそのバイト、代わりにボクが出るよ」
「すまねぇ!! けど、いいのか?」
遊戯にとって、城之内は初めて出来た友達だった。その大切な親友が困っているのを見過ごせるはずはなく、自分が役に立つのなら喜んで引き受ける。
「もちろん! せっかく静香ちゃんが来てくれるんでしょ?」
だったら会わなきゃ、と笑顔を見せる遊戯の頭を城之内はわしゃわしゃと撫でた。
「ありがとな、遊戯。礼は必ずすっからよ…」
目頭まで押さえだした城之内に遊戯は慌てる。
「いいよ、そんなの! そもそもボク、アルバイトなんて初めてだし城之内くんの代わりが出来るかどうか…。迷惑かけなきゃいいけど」
「それなら大丈夫だって! 簡単な接客だけだし。接客なら家のゲーム屋で馴れてんだろ? "いらっしゃいませ"って笑顔振り撒いてりゃ問題ナシ!」
「そう?」
「ああ! そんじゃ詳しい事はまた今度話すな。店長にもオレのダチが行くって伝えとくぜ」
「うん。ヨロシクね!」
そう言って城之内と別れた数分後、遊戯はピタリと立ち止まる。


…そういえば、24日ってクリスマスイブじゃない?
うわぁ、どうしよう忘れてた!
特に約束してた訳じゃないけど、毎年もう一人のボクと一緒に過ごして来たんだよなぁ。その…こ、恋人同士になってからも楽しみにしてたイベントの一つだし。
…でもボク、城之内くんの頼みは断れないよ! だって力になりたいし!!
もう一人のボクだってきっと、分かってくれるよね…?


…そう思ったものの、自分を溺愛している《遊戯》には何となく伝えづらく、日を追う毎に溜息が増えるばかり。仕舞にはそんな自分を見て気遣わしげな目を向けられる始末だ。
これでは駄目だと意を決し、24日は一緒に過ごせないと伝えた所、《遊戯》は全速力で走り去ってしまった。
それが、つい先程の出来事。
いつもなら二人で帰っている路も、今は遊戯一人だ。
ぽてぽてと歩きながら《遊戯》に言われた言葉を反芻してみる。


"別れないからな"って、ボクだってイヤだよ! 別れないよ!!
え、何。どういう事なの!? いつの間にそんな話になってたの!?
…でもきっと、もう一人のボクの事を凄く傷付けちゃったんだ。そうだよね、クリスマスはいつも一緒に過ごしてたんだもんね…。
24日かぁ…。バイトが終わってからなら会えるかな。それともお店に遊びに来てもらうとか!
何のバイトなのかまだ教えてもらってないけど、接客だって城之内くん言ってたしお客さんとしてなら会えるよね。
次の日は日曜日だし、っていうか23日から冬休みだし、そのままもう一人のボクん家に遊びに行っちゃえ!
ママだってきっと大目に見てくれるハズだよ。
よし、そうしよう! 明日はもう一人のボクともう一度話をしてみよう!!
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