おとぎばなしの そのてまえ


紅くて鋭い瞳をしたその郵便屋さんは、今日も赤い制服に着替えて家を出ました。
煉瓦の敷き詰められた舗道を黒いブーツで歩くと、その上に積もった雪がキシキシと鳴きます。
郵便屋さんは白い息を吐きながら、出勤時間ぴったりに職場へ顔を出しました。

自分の配達するエリアの郵便物を確認しながら鞄に詰め込んでいると、ベテランの郵便屋さんの姿が目に入りました。
ゆっくりと歩くその足元を見遣ると、どうやら怪我を負っているようです。
鋭い目をした郵便屋さんは、ベテランの郵便屋さんのエリアのお仕事も引き受ける事にしました。
この時期のお仕事は安全を重視して歩きなのです。ベテランの郵便屋さんの配達エリアは、遠くの山の方でしたから危ないだろうと考えたのです。


その山の頂上には、小さいけれど趣きのある家が一軒建っているのが見えました。
風に揺れる吊橋を渡って、細い道を登って行きます。
家の前に着いた所で、ここ宛の手紙を三通取り出してドアをノックしました。

コンコン。

「はーい」
と中から明るい声がして、キィ…と木製のドアが開き、紫色の優しい瞳をした少年が出て来ました。
「あんたに、郵便だぜ」
「わぁ、ありがとう。郵便屋さん」
ごくろうさま、そう言って少年は笑いました。
渡した三通の手紙を嬉しそうに胸に抱いた少年を見て、郵便屋さんも嬉しい気持ちになりました。
そんなに喜んでもらえた手紙の中身や相手の事が何故だか少し気になりましたが、聞く訳には行きません。

ふわり。

その時、郵便屋さんの肩に暖かいものが掛けられました。少年の羽織っていた、白い毛糸で編まれた肩掛けです。

「え?」
「今日は特に冷え込むから」

こんな事をされたのは初めてで、郵便屋さんは戸惑いました。

「ふふふっ」
「…?」
「あ、ごめんなさい。何だかサンタさんみたいだなと思って」
「オレが?」
「はい。その赤い制服が、何だかサンタさんみたい。ボクにプレゼントも持ってきてくれたし」

ヒラヒラと手紙を見せる少年の姿に、郵便屋さんも少し笑いました。

「なぁ、コレ…」
「その肩掛け、良ければ差し上げます。ボクからのクリスマスプレゼント」
「そうか、ありがとう。なら遠慮なく貰うぜ」

相変わらず息は白いままでしたが、郵便屋さんはもう寒くありませんでした。
この少年と話をしているだけで、じんわりと心が温かく感じるのでした。

「それじゃあサンタさん、これからもお仕事頑張って。気をつけてね」
「あぁ、また来る」

今度は肩掛けのお礼を持って。
お仕事は抜きで。


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