人魚姫の本音


「夢を見たよ」
『…夢?』
「うん」


まるで"人魚姫"みたいな哀しい夢だった。


「夢の中でボクは…ボク達は、今みたいに二心同体でさ。でも今と違うのは、君の失われた記憶をボクは知っているんだ」
『なら、オレも自分の過去をもう知っているのか?』
「ううん。知っているのはボクだけ」
『…教えてくれないのか』
「うん。その夢の中でボクは喋っちゃいけなかったから」
『……』
「喋ってしまったら、ボクにとって一番大切なモノが消えてしまうんだって言われた」
『誰に?』
「さぁ…。もうそれ以外は覚えてないや」


ボクにとって一番大切なモノって…一体何だろうね。一番愛しいものなら君だってすぐに分かるのに。
君を好きなボクの気持ち? その気持ちを抱いてるボク自身?
それとも…やっぱり君なのかな。


「人魚姫の話…知ってる?」


大好きな人の傍に居るのに喋れないんだ。
その人に会いたいが為に自分の声を手放した、人魚の国のお姫様。

住んでいる世界がまるで違ってしまっていたから。


「もし喋る事が出来たなら…何て言ったかな」


誰が? 人魚姫が?
夢の中でのボクが?

全てを失う覚悟で、君に記憶を教えてあげただろうか。
それとも何も言わずに、ただずっと傍に居たんだろうか。
それともただ一言、こう告げたのだろうか。


「ねぇ、もう一人のボク」
『あぁ』

「…好き」


そう言って彼の唇に、自分のそれを寄せたつもりで微笑んだ。

…泡の感触すら覚える事は出来なかったけれど。



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