カフェごと。
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遊戯が今日千年パズルを外していた理由は、"パズルを汚してしまうから"ではなく、サプライズで《遊戯》にプレゼントを用意したいという思いからだった。
余分に買ってもらったチョコやカフェオレもその為で、せっかく作るのだから《遊戯》をもてなしたい。作り終えたら、リビングをカフェに見立てたらどうだろうかと思い付き、飲み物も用意したかったのだ。
…と言ってもカフェオレは温めるだけだけどね。
もう一人のボク、甘いもの嫌いじゃないって言ってくれたけど、やっぱり君とボクとじゃ味の好みって違う気がする。カフェオレにしたのは、甘すぎず苦すぎずで君とボクどっちも飲めるんじゃないかなって思ったからなんだ。
もう一人のボク、喜んでくれるかなぁ…。
喜んでくれると…いいな。
この短時間の間に三回目のガトーショコラ作りともなると、大分要領を得て楽しむ時間も出てきた。
母が居ない分時間も掛かってしまったが、一つ一つの作業を丁寧にこなして行った為、あとはもう焼き上がりを待つだけだ。
「さて…と。今度こそ使った物を片付けなくちゃ」
普段料理をしない遊戯は、調味料を仕舞う場所さえも良く分からず、先程までの余裕もどこへ行ったのかまたパタパタと忙しなく動いた。
あっという間に25分を知らせるアラームが鳴り、オーブンを開けてみる。
「これは結構いい出来なんじゃない? あとは竹串に付いて来なければ…」
ぷす、と刺して引き抜いた。ゆっくりと遊戯の顔に安堵の色と笑みが広がる。
「一人でも出来た…!!」
…っと、浮かれてる場合じゃなかった。次はこれの粗熱を取ってる間にカフェオレ温めて、もう少しこの辺キレイにしよう!
---
『もう一人のボク、聞こえる?』
千年パズルを着けたのか、《遊戯》の元に愛しい片割れの声が届いた。
「あぁ、聞こえるぜ」
『ねぇ、今からちょっとボクに代わって表に出てくれない?』
「分かった」
胸元の千年パズルが淡い光りを発し、《遊戯》は目を閉じる。再び目を開けるとそこは遊戯の部屋ではなく、一階のリビングだった。
『えへへ。お待たせ、もう一人のボク』
チョコレートの匂いが満ちた部屋。実際目の前のテーブルにはそれが使われたであろうガトーショコラが綺麗な皿に盛り付けられており、横にはカフェオレの入ったマグカップも置かれている。
訳が分からず隣にいる遊戯に視線を送ると、彼は恭しく頭を下げた。
『いらっしゃいませ、お客様。本日は日頃お世話になっている貴方様にささやかではございますが、こちらを用意させて頂きました。どうぞお召し上がり下さい』
そして下げていた顔を上げ、ウィンクしてみせる。
『なーんて、ね! これ、ボクからのバレンタインプレゼント!! 一日早いけど受け取ってもらえる?』
「…これ、相棒が作ったのか?」
『うん。全部一人でも作ってみたんだ』
「オレの為に、色々と用意してくれていたのか…?」
『うん』
《遊戯》の声は小さくなり、ゆっくりと下を向いた。
『…こんな事されても嬉しくなかった?』
「そうじゃない!」
弾かれたように《遊戯》は顔を上げる。
「そうじゃないんだ。…嬉しくて、どう言ったらこの気持ちが伝わるのか考えていたんだ」
困ったような、それでも力強い真っ直ぐな瞳に遊戯は捕われる。
「なぁ、相棒」
『…なぁに』
「後で一緒に心の部屋に降りてくれないか」
優しげに細められた目。
甘い、甘い、声。
「この幸せが少しでも伝わるように…お前を思いっきり抱きしめたいんだ」
終
遊戯が今日千年パズルを外していた理由は、"パズルを汚してしまうから"ではなく、サプライズで《遊戯》にプレゼントを用意したいという思いからだった。
余分に買ってもらったチョコやカフェオレもその為で、せっかく作るのだから《遊戯》をもてなしたい。作り終えたら、リビングをカフェに見立てたらどうだろうかと思い付き、飲み物も用意したかったのだ。
…と言ってもカフェオレは温めるだけだけどね。
もう一人のボク、甘いもの嫌いじゃないって言ってくれたけど、やっぱり君とボクとじゃ味の好みって違う気がする。カフェオレにしたのは、甘すぎず苦すぎずで君とボクどっちも飲めるんじゃないかなって思ったからなんだ。
もう一人のボク、喜んでくれるかなぁ…。
喜んでくれると…いいな。
この短時間の間に三回目のガトーショコラ作りともなると、大分要領を得て楽しむ時間も出てきた。
母が居ない分時間も掛かってしまったが、一つ一つの作業を丁寧にこなして行った為、あとはもう焼き上がりを待つだけだ。
「さて…と。今度こそ使った物を片付けなくちゃ」
普段料理をしない遊戯は、調味料を仕舞う場所さえも良く分からず、先程までの余裕もどこへ行ったのかまたパタパタと忙しなく動いた。
あっという間に25分を知らせるアラームが鳴り、オーブンを開けてみる。
「これは結構いい出来なんじゃない? あとは竹串に付いて来なければ…」
ぷす、と刺して引き抜いた。ゆっくりと遊戯の顔に安堵の色と笑みが広がる。
「一人でも出来た…!!」
…っと、浮かれてる場合じゃなかった。次はこれの粗熱を取ってる間にカフェオレ温めて、もう少しこの辺キレイにしよう!
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『もう一人のボク、聞こえる?』
千年パズルを着けたのか、《遊戯》の元に愛しい片割れの声が届いた。
「あぁ、聞こえるぜ」
『ねぇ、今からちょっとボクに代わって表に出てくれない?』
「分かった」
胸元の千年パズルが淡い光りを発し、《遊戯》は目を閉じる。再び目を開けるとそこは遊戯の部屋ではなく、一階のリビングだった。
『えへへ。お待たせ、もう一人のボク』
チョコレートの匂いが満ちた部屋。実際目の前のテーブルにはそれが使われたであろうガトーショコラが綺麗な皿に盛り付けられており、横にはカフェオレの入ったマグカップも置かれている。
訳が分からず隣にいる遊戯に視線を送ると、彼は恭しく頭を下げた。
『いらっしゃいませ、お客様。本日は日頃お世話になっている貴方様にささやかではございますが、こちらを用意させて頂きました。どうぞお召し上がり下さい』
そして下げていた顔を上げ、ウィンクしてみせる。
『なーんて、ね! これ、ボクからのバレンタインプレゼント!! 一日早いけど受け取ってもらえる?』
「…これ、相棒が作ったのか?」
『うん。全部一人でも作ってみたんだ』
「オレの為に、色々と用意してくれていたのか…?」
『うん』
《遊戯》の声は小さくなり、ゆっくりと下を向いた。
『…こんな事されても嬉しくなかった?』
「そうじゃない!」
弾かれたように《遊戯》は顔を上げる。
「そうじゃないんだ。…嬉しくて、どう言ったらこの気持ちが伝わるのか考えていたんだ」
困ったような、それでも力強い真っ直ぐな瞳に遊戯は捕われる。
「なぁ、相棒」
『…なぁに』
「後で一緒に心の部屋に降りてくれないか」
優しげに細められた目。
甘い、甘い、声。
「この幸せが少しでも伝わるように…お前を思いっきり抱きしめたいんだ」
終
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