カフェごと。

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翌日、遊戯は朝食を済ませてから自分の部屋へと戻り、千年パズルを両手で包んだ。
昨夜遊戯が眠りにつく前に、『明日はママさんと頑張ってケーキ作れよ』と目を細めながら言っていた《遊戯》。今、彼は自分の心の部屋にいるのか姿を見せず、遊戯は彼を想い千年パズルを持つ手にそっと力を入れる。
「うん。ボク…頑張るからね!」
思い切って千年パズルを首から外し、遊戯は部屋を後にした。

チョコ、ココアパウダー、シュガーパウダー、他にも沢山のガトーショコラ用の材料が母の居るキッチンに用意されていた。
なんとなくではあるが甘い匂いがこの空間に満ちていて、普段と違うそれに胸が躍る。
「じゃあ、ママ。早速作ろっか!」
「そうね。ママはこのチョコを細かく刻んでおくから、遊戯は薄力粉をふるっておいてくれる?」
いつの間に買っていたのか、母の目の前には初心者向けのお菓子作りの本が置いてあった。作業の内容もフルカラー写真で説明されていて分かりやすい。遊戯はそれを母の隣から覗き込んで、自分も行動を開始した。

「わっ、ママ! これ結構…ケホッ、難しいよ」
「あんまり力入れちゃ駄目よ。…ふふっ、粉まみれね」
「次はー?」
「そこのバターを溶かして、オーブンを160゚Cに設定しておいて。手順の五番目ね」
「…ねぇ、手順の三番目抜けてるんじゃない? まだメレンゲ作ってないよ!」
「あらヤダ! じゃあママが急いで作るわ。遊戯、それが終わったらコレに牛乳を入れて混ぜてちょうだい」
「分かった…って、あー! つまみ食いズルイよ! ボクも食ーべよッ」
「こら! 無くなっちゃうでしょ!!」

バタバタと動き続けて、ようやくオーブンの前で中を見ながらガトーショコラの完成を待つ。
「あんまり膨らんでないね…。もう焼き上がる時間のハズなのに」
「そうね…。 でもまだ時間も材料もあるわ! もう一回作るわよ!!」
「うん!!」

二度目の作業は、一度目の失敗を繰り返さないようにと気をつけたおかげで随分はかどった。
コツも掴めてきた事で気持ちにも余裕が出来、慌てる事無く型に生地を流し込む工程まで辿り着く。
オーブンの前で再び待ち、焼き上がり時間である25分が経過した所で遊戯の母がそれをゆっくりと中から取り出し、中央へと竹串を刺す。
引き抜いた竹串には何も付いて来ず、遊戯達二人に生地が焼き上がった事を告げた。
「で…出来たー!!」
「やったぁ~!!」
手を取り合って喜んだ二人だが、ふと遊戯の目に時計の針が映る。
「ママ、もう2時過ぎちゃったよ。これ、シフォンケーキくれた人へのお礼って言ってなかった?」
「あっ、そうだったわ。3時にお友達の家でお茶会する予定なの。もう行かないと! 遊戯も一緒に来る?」
「えー、ボクはいいよぉ。楽しんで来なよ」
「…そう? せっかく遊戯と作ったのに一緒に食べられないなんて残念だわ…」
「大丈夫! こっちもあるから」
最初に作ったガトーショコラを見て遊戯は笑った。あまり膨らまなかったが食べられない代物ではない。
「ホラ、ママ! 間に合わなくなっちゃうよ。片付けもボクがやっておくから! …でもあんまり綺麗にならなくても怒らないでね」
「遊戯…。ありがとう、ママ行ってくるわね! また今度一緒にケーキ作りしましょうね!!」
「うん。行ってらっしゃーい!」
出来上がった物を包み、急いで身なりを整えて出て行った母を見送った後で、遊戯はくるりと振り返りキッチンを見渡した。
昨日余分に買ってもらったチョコも、他の材料もまだ残っている。
「よしっ!」
と、遊戯は気合いを入れ直す。


ごめんね、ママ。後片付けはもうちょっと後になりそう…。だってボクの目的はこれから始まるんだ。
ボクだけの力でもう一回ガトーショコラ焼き上げて、もう一人のボクへのバレンタインプレゼントにするんだ!!
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