カフェごと。

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遊戯の予想通り、土曜日は午後の3時から母と買い出しに出掛ける事になった。
前もって出掛ける時間帯を聞いていたので、朝からその時間までほぼずっと、遊戯は自分の心の部屋で《遊戯》と過ごした。
"明日は放って置かれるんだろ"、と未だに軽く拗ねてみせる《遊戯》に"ごめんってば"と謝り、他愛もない話をしてはじゃれ合うようにキスをする。

その甲斐あってか母と出掛けた頃には《遊戯》の口から不満の声が洩れる事は無く、半透明な姿で遊戯の隣に立ち、母と会話をする彼の様子を眺めていた。
「ママとスーパーに買い物しに来るなんて久しぶりかも」
「そうね。たまには手伝ってくれるとママも嬉しいんだけど」
と、遊戯に母から一枚の紙が手渡される。
「何? これ」
「買い物リストよ。バターはまだ家にあったからまずはチョコね! ほら、行くわよ~」
「もぉー! 待ってよ、ママ!」
パタパタと駆け出すと、遊戯の隣でもう一人の自分が笑った気配がした。
『上機嫌だな、ママさん』
「うん。ボクとケーキ作るの相当楽しみにしてるみたい」
『そうか』
「待っててね! 君にも…」


…っと、いけない。これはまだもう一人のボクには秘密なんだぜ。


『どうした、相棒』
「ううん。早く行こっ!!」

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「遊戯、メモには他に何て書いてたかしら」
「ココアパウダーだって。あ、ちょうどココにあるよ!」
「ありがとう。コレで明日の分は大丈夫ね。ママ、これから夕食の材料も探してくるから、遊戯も何か食べたい物があったら探して来なさい」
「わぁ、やった!」
「でもあんまり沢山は駄目よ」
「分かってるって!」

遊戯は母と別れて、再びチョコやお菓子が所狭しと並べられている棚の前で足を止めた。
「んーと、コレをあと二枚くらい…」
『相棒。その板チョコ、さっきカゴの中に入れたのと同じヤツだろ?』
「うん。必要なんだ」
『明日使う分量なら、アレで足りたと思うんだが…』
「えっと…。あっ! ホラ、失敗するかもしれないしさ」
そんな事より、と遊戯は《遊戯》に問い掛ける。
「ねぇ、君は何か食べたい物とか無いの?」
『オレ? …いや、特に無いな』
「飲み物でもいいよ」
『別に必要無いぜ。相棒が欲しい物を買ってもらえばいいじゃないか』
もぅ。と小さく遊戯は溜め息をつき、それからゆっくりと歩き出した。
「ママの所行こっか」
『もう何も要らないのか?』
「ママの事探しながら、何か欲しい物があったら手に取るよ。よし! ボクは左側を見てるから、君は右側をお願いね」
『あぁ、分かったぜ』
飲み物が置かれている所へさりげなく歩きながら、遊戯は横をチラリと盗み見た。《遊戯》は言われた通りに顔を右に向けていて、今の遊戯の行動を見ていない。
その隙にとカフェオレのパックを手にした所で、遊戯の視界に母の姿が映った。
「あっ。もう一人のボク、ママ居たよ。ママー! ボク、これ欲しい」
食材がより増えたカゴの中にそれらを入れると、母の不思議そうな声が聞こえてきた。
「カフェオレ? 遊戯、カフェオレなんて好…」
「いいから、いいから! 早くレジ行こー!!」
遊戯は慌てて母の言葉を遮る。


まだボクの小さな計画が、もう一人のボクにバレていませんように!!


喜んでくれるだろうかと考えるだけで、遊戯の顔は自然と綻んだ。
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