slow


太陽の沈みかけた景色を、つまらなそうに《遊戯》は眺めていた。
人のまばらなバス。一番後ろの右側の席に乗り込んでから窓の縁に肘を掛け、頬杖を付きながらずっと外を見ている。


…今日は、居ないんだろうな。


放課後、いつもの様に帰り支度をしていると教師に雑用を頼まれた。
断る理由も特に無かった為引き受けたが、それを終えて帰りのバスに乗り込んだのはいつもより大分遅い時刻だった。


いつもなら、ここで乗り込んで来るはずなんだが。


ゆっくり走るバスがいくつ目かの停留所で止まり、昇降口に視線を移す。
これが普段通りの時間であるならば他校の生徒が多数乗り込んで来る場所だ。
そして《遊戯》は近頃、その中の一人に興味を持っていた。
名前も知らない、小柄な男子学生。帰りのバスの車内で度々見かける彼はどこか自分に似た容姿をしていたが、身に纏う雰囲気は正反対で柔らかく、優しそうに見えた。

…実際、優しいのだろう。
いつだったかバスがブレーキを掛けた時に、乗客の少年がバランスを崩して倒れそうになった事があった。
少年の近くに立っていた彼が真っ先にその事に気付き少年を支えたが、その反動で今度はオレが居た方へと倒れ込んだ。
『わぁっ! ご、ごめんなさい』
『いや、いい…』


あんたの方こそ大丈夫か、そんな気の利いた一言でも口から出れば良かったのに。


『助けてくれてありがとう』
初めて目が合い、笑った顔から目が離せなかった。
『……』
また、どんな返事をしていいものかと考えている内に、先程の少年が彼に礼を言いに来た。二人はいくつか言葉を交わすと降りる場所が同じだったのか、その内に停まった停留所で一緒にバスから降りて行く。
バスが動き出しても暫くの間、オレの視線は彼の姿をずっと追いかけていた。

そんな出来事もあって、《遊戯》はバスに乗る度に彼が居ないかどうかと探す。自分の容姿に似たその人を。

ふ、と昇降口から一人の男子学生が乗り込んで来た。小柄で優しそうな人物ではあったが彼では無い。
内心気落ちした自分に気付いて、《遊戯》は苦笑した。


やはりこんな時間じゃ、居る訳ないか…。
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