秘密 -Darkness-(長編・未完)
何だか、ボクの千年パズルと似てる……?
首を傾げるユウギの後ろへ、城の主の手が伸びる。ユウギが目の前の千年アイテムを手に取るような事があれば、容赦なく彼に手を出すつもりだった。それこそ、今までこの城を荒らしてきた奴らと同じように、肉体と精神を痛め付けて。
すっ、と仮面の下の主の目が細められる。ユウギを見つめるその視線は冷たく、己の心を落ち着けて冷静に相手の動向を伺う。
……が、ユウギへと伸ばした自分の腕が小刻みに震えているのを自覚して、城の主はそんな自分に戸惑った。
……何だ、コレは。一体オレは何を怖がっているんだ。
……怖がっている? オレが? ……何を。……こいつを?
そうか。オレは……オレは信じたいんだ、ユウギを。ユウギだけは今までの誰とも違うのだと。自分に向けられる優しい言葉と、ひっそりと呟かれたあの思いを。
『友達に、なれないかなぁ……』
あの言葉が嘘で、お前の全てが嘘で、もし……お前がここにあるオレの全てを持ち去ってしまうとしたらどうすればいい?
それが、怖いんだ。
ユウギ。ユウギ……。頼むから、それだけは……
そこまで城の主が考えた所で、目の前にいたユウギは何も手にする事なく、くるりと後ろを向いた。
「うわぁっ!!」
「!」
「ビッ……クリしたぁ…。いきなり後ろに誰か居るんだもん」
「……」
驚いたのは、城の主も同じであった。だがこちらは、ユウギとはまた別の驚きだ。
「君は……」
主が声も出せずに居ると、何故かユウギは少し微笑んで彼の頬へと手を伸ばしてきた。
「やっと出会えたね…」
陽の光に照らされ、そこで初めてユウギは暗闇に邪魔される事なく、城の主の姿をしっかりと見つめた。
ユウギへと腕を伸ばしたままであった城の主の手と、主の頬へと伸ばされたユウギの手。互いの顔に添えられた指から同じ体温が伝わる。
「……」
自分達の他には誰も居ない静かな城の中で、まるで時が止まったかのようだった。それ程までに静まり返った空間で、ユウギは初めて見る自分と似た容姿をしている城の主を、呼吸をする事さえ忘れてただ見つめていた。
ユウギの指が、彼の頬から上を覆う冷たい仮面にそっと触れた所で、弾かれたように相手はユウギから距離を取る。
「! ……ごめん。な、何でボクこんな事しちゃったんだろ」
「……いや」
「……」
「……盗らないのか?」
「とら……。え、何?」
「それ。盗らないのかと聞いている」
不意に問われた話の内容が見えず、しかし城の主が示したのが先程まで自分が見ていた箱の中身である事に気付いて、ユウギは大きく目を見開いた。
「盗るって……え!? 盗むって事!?」
「そうだが」
「えぇ!? いや、盗らないよ! だってコレ、君のものでしょ?」
「……」
「君のじゃなくても盗らないけどなぁ。……それともボク、そんな風に見えた?」
「……見えはしなかった。だが、疑ってはいた」
「……そっか。疑わせるような事しちゃってゴメンね。ボクの持ってるコレと似てるなぁと思って見入っちゃってたんだ。人の物なのに無神経だったよね」
そう言ってユウギは首から下げている自分の千年パズルを主に見せ、申し訳なさそうに目を伏せた。
「いや……オレの方こそ、お前に対して無神経な態度を取っている」
「そうかなぁ……? 君って優しいけど」
「………。もういいだろう。じゃあな」
「えっ、待って!」
城の主が踵を返そうとした所で、慌てたようにユウギは声を掛けた。
「……どこ行くの?」
「お前がコレを盗らないのなら、オレがここに居る理由もないからな。部屋に戻る」
「……どうしても? ボク、このお城の中探検してみたいなって思ってて……。でも一人よりも二人で居た方がきっと楽しいでしょ? だから、君も一緒にどうかなぁって……」
「……今日は戻る。だが、何かあったら呼べばいい。……すぐに行く」
「!」
今度こそ踵を返した主の背中に、ユウギは"ありがとう"と笑顔で告げた。断られはしたものの、彼のどこか冷たい声に少しの温度が重ねられてきた事が、何だか無性に嬉しかった。