秘密 -Darkness-(長編・未完)
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朝になり、柔らかな光が部屋を満たし始めた。
目を覚ましたユウギはすぐ傍にある千年パズルを指でそっと撫でる。小さな家で祖父と二人暮らしをしてきたユウギには、この広すぎる城の静けさは少し寂しい。
「おはよう、じーちゃん……」
呟いた声は、やはり静かなこの部屋の中に溶けゆくように、響く事なく消えた。
この千年パズルは祖父が昔から大事にしてきたものを数ヶ月前に譲り受けたばかりで、ユウギも宝物として大切に扱っていた。
じーちゃん、今…どこに居るのかな。無事に家に帰ってきてたらいいな。
ボクまで急に家から出ちゃってゴメンね。でも必ず、新月の夜になったら必ず家に戻るから……!
だからそれまで、どうか無事でいて……。
ユウギは横になったままでギュッと千年パズルを抱きしめ、「大丈夫だよね」と自分に言い聞かせるように笑ってみせた。次に祖父に会う時までには、もっと強い自分でいられるように、と。
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この城の主に言われた、"好きにしろ"という言葉に甘えて、ユウギは城の中を歩く。
廊下は相変わらず荒れていて、ガラス片どころか椅子や小さなテーブルまでもが散乱している場所もあった。ユウギはそれらを軽く片付けながらゆっくりと進む。ガラス片までは手が回らなかったが、近い内にそれも片付けられたなら、と思う。
初めは荒れていて歩きにくかったこの廊下も、随分すっきりとした印象へと変わった。元々は城に留まる事を許してくれた、ここの主への少しばかりの礼のつもりだったが、段々と気持ちが移り変わっていった。歩いていればこの状況は目に付くし、気になる。今ではユウギ自身が歩きやすいようにと行動していたに過ぎず、礼には到底ならないだろう。
変わった人だよなぁ……と、ユウギはふと思う。城の主はこのような状態で歩きにくくはなかったのかと。
神出鬼没で足音一つ立てずに現れては消え、呼びかけに応じない事はあっても、ユウギの存在を無いものとして扱う事はしない。冷たい口調で話す言葉は、それでも時折優しさが垣間見れた。
あんな人……初めて会ったな。
それに、今のボクに暴力振るわない人も初めてだ。どうしてあの人だけ、彼だけ大丈夫なんだろう……?
不思議な人。でも何か、何だか……嬉しいな。
ほんの少しくすぐったさに似たような感覚を覚えて、ユウギは一人微笑する。
胸の内が暖かく、こんなに穏やかな気持ちになれたのは久しぶりだった。
その時、キィ……という音に思考を遮られ顔を上げれば、いつの間にか廊下の突き当たりまで辿り着いていた。音の聞こえてきた右側には部屋があり、その扉が小さく開いた音だったようで、ユウギは吸い寄せられるようにそれに手をかける。
ユウギは知る由もなかったが、その部屋はこの城の東の端に位置する場所で、昨晩ユウギが寝ている時に"この部屋の物だけには触れるな"と城の主から警告を受けた場所でもあった。
すっ、と音もなくユウギの後ろに彼が現れる。ユウギがこの城のどこに居るかなど彼には全て筒抜けで、今もユウギがこの部屋の前に来た気配を感じ取って姿を現したのだった。
「……」
彼はユウギの心の内を見定めるようにじっと見つめる。この部屋にこそ彼が昔から守ってきた千年アイテムが保管されているのだ。保管と言っても、部屋の中央にある箱の中に無造作に入れられているだけだが、この箱に手をかけ、持ち出そうとしてきた人間こそ敵と見なし、排除してきた。
さぁ、千年アイテムを前にして……お前はどうする……?
後ろから自分の行動を見られている事も気付かずに、ユウギは扉を開けて正面の窓から入る陽の光に目を細めた。その光が部屋の中央に置かれた箱をキラリと光らせ、ユウギを魅き寄せる。箱の蓋がずれていた為に、中身に光が反射したのだ。
「わ、ぁ……。キレイ……」
目に飛び込んできた黄金に輝く千年アイテムを目に、ユウギは感嘆の声を上げた。
朝になり、柔らかな光が部屋を満たし始めた。
目を覚ましたユウギはすぐ傍にある千年パズルを指でそっと撫でる。小さな家で祖父と二人暮らしをしてきたユウギには、この広すぎる城の静けさは少し寂しい。
「おはよう、じーちゃん……」
呟いた声は、やはり静かなこの部屋の中に溶けゆくように、響く事なく消えた。
この千年パズルは祖父が昔から大事にしてきたものを数ヶ月前に譲り受けたばかりで、ユウギも宝物として大切に扱っていた。
じーちゃん、今…どこに居るのかな。無事に家に帰ってきてたらいいな。
ボクまで急に家から出ちゃってゴメンね。でも必ず、新月の夜になったら必ず家に戻るから……!
だからそれまで、どうか無事でいて……。
ユウギは横になったままでギュッと千年パズルを抱きしめ、「大丈夫だよね」と自分に言い聞かせるように笑ってみせた。次に祖父に会う時までには、もっと強い自分でいられるように、と。
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この城の主に言われた、"好きにしろ"という言葉に甘えて、ユウギは城の中を歩く。
廊下は相変わらず荒れていて、ガラス片どころか椅子や小さなテーブルまでもが散乱している場所もあった。ユウギはそれらを軽く片付けながらゆっくりと進む。ガラス片までは手が回らなかったが、近い内にそれも片付けられたなら、と思う。
初めは荒れていて歩きにくかったこの廊下も、随分すっきりとした印象へと変わった。元々は城に留まる事を許してくれた、ここの主への少しばかりの礼のつもりだったが、段々と気持ちが移り変わっていった。歩いていればこの状況は目に付くし、気になる。今ではユウギ自身が歩きやすいようにと行動していたに過ぎず、礼には到底ならないだろう。
変わった人だよなぁ……と、ユウギはふと思う。城の主はこのような状態で歩きにくくはなかったのかと。
神出鬼没で足音一つ立てずに現れては消え、呼びかけに応じない事はあっても、ユウギの存在を無いものとして扱う事はしない。冷たい口調で話す言葉は、それでも時折優しさが垣間見れた。
あんな人……初めて会ったな。
それに、今のボクに暴力振るわない人も初めてだ。どうしてあの人だけ、彼だけ大丈夫なんだろう……?
不思議な人。でも何か、何だか……嬉しいな。
ほんの少しくすぐったさに似たような感覚を覚えて、ユウギは一人微笑する。
胸の内が暖かく、こんなに穏やかな気持ちになれたのは久しぶりだった。
その時、キィ……という音に思考を遮られ顔を上げれば、いつの間にか廊下の突き当たりまで辿り着いていた。音の聞こえてきた右側には部屋があり、その扉が小さく開いた音だったようで、ユウギは吸い寄せられるようにそれに手をかける。
ユウギは知る由もなかったが、その部屋はこの城の東の端に位置する場所で、昨晩ユウギが寝ている時に"この部屋の物だけには触れるな"と城の主から警告を受けた場所でもあった。
すっ、と音もなくユウギの後ろに彼が現れる。ユウギがこの城のどこに居るかなど彼には全て筒抜けで、今もユウギがこの部屋の前に来た気配を感じ取って姿を現したのだった。
「……」
彼はユウギの心の内を見定めるようにじっと見つめる。この部屋にこそ彼が昔から守ってきた千年アイテムが保管されているのだ。保管と言っても、部屋の中央にある箱の中に無造作に入れられているだけだが、この箱に手をかけ、持ち出そうとしてきた人間こそ敵と見なし、排除してきた。
さぁ、千年アイテムを前にして……お前はどうする……?
後ろから自分の行動を見られている事も気付かずに、ユウギは扉を開けて正面の窓から入る陽の光に目を細めた。その光が部屋の中央に置かれた箱をキラリと光らせ、ユウギを魅き寄せる。箱の蓋がずれていた為に、中身に光が反射したのだ。
「わ、ぁ……。キレイ……」
目に飛び込んできた黄金に輝く千年アイテムを目に、ユウギは感嘆の声を上げた。