秘密 -Darkness-(長編・未完)
例に洩れず、己の姿はユウギと名乗る少年が城に足を踏み入れた瞬間、彼のものへと形を変えた。周りを不安そうにキョロキョロと窺うその姿がまるで昼間のように鮮明に見えるが、目元に手をやると陶器のような冷たさがある。
どうやら今回もまた、仮面を付けているらしい。
……頭が痛い。
自分が他人の姿を形取る度に、気持ち悪さに加えて頭痛を感じてきた。いつもの事ではあるが、今回はやけにその痛みを強く感じる。
しかしその頭痛も、ユウギが何かを大事そうに抱えている事に気付き、そちらに気を取られて薄れたが、今度は胸がざわ付く羽目になる。
あれはオレが守ってきた千年アイテム!? いつの間に…!!
………いや、違う。とても良く似ているが、この城にある物ではないな……。
しかし、形こそ違えどあの輝きは千年アイテムそのもの。こいつは一体……?
気にはなったものの、それが守れと言われた己の千年アイテムではないのならば最早興味はなく、"しばらく泊めてくれ"と言う相手に適当に返事をし、城内の奥へと引き返そうとした時、
「ま、待って!!」
と声を掛けられた。
待つ道理など無かった為、音も無く歩を進める。後ろから疲労を含んだユウギの息遣いが必死に追ってくるのが分かり、度々立ち止まっては彼の姿をじっと見た。
一体、何のつもりだと思う。自分はさっき、こいつに"勝手にしろ"と言った筈ではなかっただろうか。
部屋なら余りある程ある。現に今も左右に見える扉を通り過ぎたばかりだ。
何をそんなに追ってくるんだ? 膝に手を付いて、真っ直ぐに立っていられない程疲れているのなら、その辺の部屋に入って床に横になればいい。
「………」
どうしても追ってくるのだろうか……。それならば、と普段己が精神体で居座っている部屋の前で気配を消してみせる。
これまで、誰かがこの城に足を踏み入れる事でその姿を得ても、やはりその肉体は自分のものではないからなのか、触れようと思ったものにしか触る事は出来なかった。
ふっ、と天井を抜けて相手の様子を窺う。
「あれ?」
自分の姿を見つけられなかったユウギが声を上げる。不安そうな表情を見せるユウギ。
本当に、こいつは一体何なんだ。
今までこの城に入ってくる奴に、こんな人間は居なかった。いつだってアイテムを奪おうと城を荒らし、オレのこの姿を見ては怯えて、逃げるか襲い掛かってくる奴らばかりだった。
こんなにも行動が読めない人間に会ったのは初めてで、どうしたらいいのか分からなくなる。
しかし、とも思う。動行が気になる相手と言っても油断する訳には行かない。幼く、優しそうな顔をして、それを利用しているのかもしれない。胸元に光る物と酷似した千年アイテムの噂を聞き付けて、やって来たのかもしれない。
その天井に空いた穴から疲れ果てて眠ってしまったユウギを見下ろし、
「しばらく……様子を見させてもらうぜ」
と、城の主は呟いた。
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翌日になっても、調子の狂う出来事は続いた。昼間近くになって目を覚ましたユウギは、恐らく自分を探しに部屋から出たようだった。
追いかけはしなくとも、この城にいる間ならばどんな人間がどこで、何をして、何を喋っているかが手に取るように解る。きっと精神体でいる時に自分の気を張り巡らせていた為なのだ。
城内を歩くユウギは、時折小さく独り言を漏らした。そのどれもが自分に対して好意的で、城の主は戸惑いを感じずにはいられない。
"友達に、なれないかなぁ……"という呟きが聞こえ、思わず思考が停止した。
「……友達、か……」