秘密 -Darkness-(長編・未完)
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「ん……」
陽も高く昇った頃、ユウギは目を覚ました。
……ここ、どこだっけ……?
ぼんやりと何度か瞬きを繰り返す内に、昨日の出来事が蘇ってくる。この部屋で勝手に眠り込んでしまった所までを思い出し、ユウギは慌てて身を起こした。
ゴッ。
「いったぁ!!」
思い切り起き上がった勢いのまま、天井に頭をぶつけたのだった。ベッドとして使ったこのクローゼットは大きく、高さもあった為、天井までの距離がそう無い。
ヒリヒリと痛む額を手で押さえ、寝転がりながらもう片方の手を伸ばすと板壁に指先が触れた。きっと慌てずに起き上がったのならぶつからずに済んだのだろう。
「……あれ?」
伸ばした手のすぐ横が妙に黒い事が気になり、今度こそユウギはゆっくりと身を起こす。起きたばかりの自分の目ではそれが何なのか判らず、触れてみてようやく手の平大の穴が空いているのだと知った。
「このまま腕が入っちゃいそうだな」
何となくそんな事を思って独り言を零したが実行には移さず、ユウギはそろそろと梯子を降りた。
「………」
んー…。今日これからどうしよう。……って、そうじゃなくて!!
昨日まで自分の家でしか暮らした事がないユウギにとって、"怪物が住むと噂される、伝説の城の中に居る"という今の状況は、あまりにも現実味がなかった。部屋の真ん中に突っ立ったまま途方に暮れてしまったが、ふるふると顔を横に振って気を持ち直す。
まずはあの人に会わなければ、と思った。この城の主であろうあの人に。
お礼を言う為に追ってきたというのに結局寝てしまい、その後は当然会えていない。
「……よし。探しに行こう!!」
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人を探す、というよりは城内を探検しているような気分でユウギは歩いた。
昼間の明るい状態で改めて見回しても、やはりどこも荒れていて、歩く度に靴の下でガラスが音を立てて割れた。
「掃除用具とか無いかなぁ…。見つかったら、泊めて貰うお礼も兼ねて掃除しよう」
お礼になるかどうか分かんないけど。
…それにしても、どこに居るんだろう。
ユウギは歩きながら、未だ顔も知らぬ人物に思いを馳せた。
声を聞く限りでは男なのだろうと思う。その声もユウギより低めではあるものの成人男性程ではなく、どことなく自分に似ているとさえ思えた。
もしかしたら、同じ年頃の男の子なのかもしれない。
……だとしたら、
「友達に、なれないかなぁ……」
静かにそう呟いた。
歩き続けた末にユウギが辿り着いたのは、昨日自分がその手で開き、入って来た扉の前であった。
「……戻って来ちゃった」
この城が未知の場所であるユウギには、昨日進んで来た道を遡る事しか出来なかった為、当然の結果とも言える。
結局ここに来るまで彼の姿を見つける事は出来なかったが、この城の中は広い。きっとまだ探していない所に居るのだろう。
「……」
ふと、扉の隙間から漏れる光に吸い寄せられたように外に出る。目の前に広がる木々は昨夜の鬱葱とした暗いイメージを一新し、太陽の光を受けて眩しい程で、ユウギは思わず目を閉じ、伸びをする。
「んーっ、風が気持ちいいや。お散歩しちゃおっかな」
そのまま外に出て暫く歩を進めると、遠目にキラキラしたものが見えた。近付くにつれてそれが大きな湖だという事が分かり、ユウギは溜め息を零す。
「キレイ……」
足元に広がる湖は澄み渡り、覗き込めば自身の姿も良く映った。
「キレイ、だけど……ボクは汚れてるや」
そう言えば昨日は森の中をゴロゴロと転げ回ったのだったと思い出して苦笑する。
全身を洗いたい衝動に駆られたが、昼間とはいえ水に浸かるには水温が低い。
それでも見えている部分くらいは洗いたくてユウギが顔を洗っていると、頭上から女の人の声がした。
『なんて懐かしいお姿……。その少年が、今回の"あなた"なのですか?』