秘密 -Darkness-(長編・未完)
そんなユウギを一瞥したかと思うと、声の主は奥の方へと静かに移動し始めた。
「ま、待って!!」
ちゃんと顔を見て、お礼を言わなくちゃ……!
重たい足を何とか動かして、必死にその影を追う。拒まれなかった事で安心し、気が緩んだのか、疲れが急激に押し寄せてきていた。
「はぁ…はぁ…」
広い廊下にユウギの息遣いと、歩く度に割れるガラスの破片の音が響き渡る。城内は荒れ果て、割られていない窓の方が少ない程だ。
しかし、こうして歩いているのに、自分の足音しかしないのはどういう訳なのだろうとユウギは思った。思っている間に、相手の影がふっと視界から消える。
「あっ!」
しまった! 見失ってしまう、とユウギは慌てて歩を進めた。そこに辿り着くとどうやら廊下の突き当たりだったようで、右側には上へと続く階段が伸びていた。
顔を上げると、階段の踊り場で視界から消えていた筈の影が立ち止まっており、こちらをじっと見ているようだった。
……もしかして、待っててくれた?
その後も一定の距離を保ちながら、見失っては見つけてを繰り返して階段を上り、廊下を渡り歩いた。
いくつかドアを見掛ける事から、部屋は多数存在するのだろう。
前を向くと、またしても影が消えた。だが、今回は見失ったのではなく、左側の部屋へと入ったようだった。
ゆっくりと近づき、開いたままになっているドアからユウギも中へと足を踏み入れる。
「あの、」
だが中には誰の姿も無かった。
「……あれ?」
広くはないが、狭くもない部屋だった。中央には長いテーブルが置いてあり、その奥にはとても大きく、高さのあるクローゼットが置かれている。しかしその扉は壊され、中にはガラクタが詰められていて本来の役割を果たしていなかった。
どこに居るのだろう、とユウギは先程まで自分が追っていた人物の姿を探すべく辺りを見回したが、だが、やはり見付ける事が出来ない。
「どこ…行ったんだ、ろ……」
フラつきながら小さく呟く。もう身体が限界を訴えていた。疲労に加え、眠気が同時に襲ってきたが、ぼんやりとした明るさを感じて、ユウギは重たい瞼を上げる。
部屋の奥、クローゼットの上に小さな窓があり、割られる事のなかったそれから、柔らかな月明かりが入ってきていたのだった。
「……?」
クローゼットの上へと届くように、梯子がかけられている事に気付いた。よろよろと近付いてよじ登ると、そこには柔らかそうな布がたっぷりと敷き詰められていた。
「ベッド…かなぁ……」
一人分が眠るには充分なスペースがある。
どうしよう……。ここ、さっきの人の部屋じゃないのかな。もっとちゃんとお礼が言いたかったのに、その前に勝手に休むなんてダメだよ……。
でも、ボクもう…眠、く…て……
そこまでが限界だった。ユウギはそのまま倒れ込み、深い眠りへと引き摺り込まれて行った。