秘密 -Darkness-(長編・未完)
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恐怖とは、一体何だろうか。
「……」
イシズは空を見上げ、一人考えた。この所の空は曇りがちで、それも日に日に暗さが増してきているような気がする。不穏な気配がひたり、ひたりと一歩ずつ近付いてくるような感覚に、嫌悪感から顔を顰めた。
「イシズ、どうした」
「……我が主」
隣から気遣わし気な声が聞こえて、イシズははっとした。自分や他の従者達のように主に忠誠を誓った者にとっての恐怖とは、目の前に居る主の身に何かが起こる事。
「いえ、何でもありません。何でも……」
「ははっ、そうか。お前がそんな顔をしていると、良くない未来でも視えたのかと思っちまうぜ」
「……いいえ、そんな事はありません」
イシズには先見の力がある。遠い未来を視る事は出来ないが、近い将来の事などは幼い頃から言い当てる事が出来た。そういった不思議な力を持つ者は従者の中にも数人おり、イシズは彼等と共に先代や《ユウギ》の側近として仕えてきたのだ。
従者の一部には《ユウギ》と共に千年アイテムを守る使命を帯びた者が居るが、イシズもその中の一人で、黄金に輝くその光を前にすると先見の力は強くなる。今朝もいつものように千年アイテムの一つ、タウクを前に未来を見ても何の異常も見受けられなかったはずだ。人災や天災などがこの地を襲う事もないだろう。
……そう信じて。
「そろそろ出掛けると言っていたな。だが、本当に一人で大丈夫か? 城の者を何名か付けても……」
「ふふっ、お心遣い痛み入ります。ですが、ほんの所用で二、三日外へ行くだけですから。ご心配には及びません」
「……そうか?」
「はい。それよりも、私の留守中に監視の目が無いからと言って、雑務を疎かにされては困りますよ」
イシズの言葉に《ユウギ》は少し目を丸くすると、笑って彼女を見送った。
「厳しいな、イシズは。ならお前が帰ってくるまでに仕事を全部片付けておくさ」
「期待しますよ」
「ははは。じゃあ、気をつけてな」
「はい」
それがイシズの目にした、生きている《ユウギ》の最後の姿だった。
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コツ、コツ、と靴の音を響かせながら、《ユウギ》は城の中を歩く。時刻はちょうど真昼時で、イシズが城を出てから数時間が経過していた。
外は今にも嵐が来そうな程に暗くなっており、城内にも灯りが必要な程で、滅多にない事象だからなのか思わず足早になる。
何故か、何故だか気が急くのだ。言い知れぬ不安が《ユウギ》の内に降り積もっていく。
……一体何が、起きようとしている?
急速に暗くなった空を睨み上げ、やはりイシズを一人城から出したのは早計だったかと思った瞬間、総毛立つ程の寒気に襲われた。
「何、だ……? 今のは……」