秘密 -Darkness-(長編・未完)


『森の奥にある古い城……』
昔からある言い伝え。

『その城に近付いてはいけないよ』
この国に住む者ならば誰でもそう教えられてきた。

『もし、その城に足を踏み入れてしまったら……。そこに巣くう怪物に骨まで喰われてしまうよ』

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「ハァッ…ハァ、くっ……!!」
何かに追われる様に、ユウギは走っていた。いや、実際追われているのだ。
振り返ると黒い影が数人、自分に向かって走ってきている。


…見た事ある。同じ村の人達だ……!
もう、あの村へは戻れない……。


ギュ、と胸元に下げた自分の宝を抱き締める。
悲しみがユウギの胸を覆った。それでも立ち止まる訳には行かない。
暗い夜の森の中を、ユウギは右へ左へと身を躱しながら逃げる。小さな身体を利用するには、この鬱葱とした森は適していた。そうでなければ、体力の無い自分はすぐに捕まってしまうだろう。

「ハッ、ハ、ァッ…ハァッ」
息が苦しい。足元がふらつき始め、意識も霞がかって来る。


逃げなきゃ。逃げなくちゃ…。でも、ボクはどこに逃げたらいいんだろう。
じーちゃん教えて。今、どこに居るの? ボクはどこに行けばいいの?
行く宛てなんて、ボクには一つもないよ…。


ガッ。
「うわぁっ!!」
足がもつれ、派手に転ぶ。ゴロゴロと転がりながらも胸元の自分の宝は離さなかった。
暗い夜の中で、腕に抱えたそれだけが美しさを主張するように黄金の色を覗かせる。

「……っ!!」
体をくの字に曲げ、足先に力を入れる事で転がる自身を止める。再び走って逃げようとしたが、己の意に反し、もう立ち上がる体力は残されていないようだった。
ユウギは迫る人影から顔を逸らすように身を丸め、ギュッと目を閉じた。

と、その時。

けたたましい雷鳴が轟き、一瞬ではあるが今が夜である事を忘れさせてしまう程の光が辺りを包んだ。
「……城」
ぼそりと誰かが呟いた。近くに雷が落ちたのであろうその光は、その場に居た全ての人間の目前に古びた城があるという事実を突き付ける。
「……!」
気付かなかった。いくら暗くとも、こんなに巨大な城の存在に気付けなかったなんて。
ユウギを追ってきていた彼等の脳裏に、昔から聞かせられてきた言い伝えがよぎる。

『その城に足を踏み入れてしまったら、そこに巣くう怪物に骨まで喰われてしまう』

そんなのは御免だ、と彼等は怯んだように後退り、暗闇の中へと引き返して行った。
「は、ぁっ…」
ユウギはやっと大きな溜め息を吐き、そのまま仰向けに寝転がった。
雷は先程の一度だけ。雨が降る気配も感じられなかった為、ユウギは安心して息を整える事が出来た。

「………」
ゆっくりと気を落ち着けると感じるものがある。
頬を撫でる風の冷たさ、それにそよぐ木々の葉の音、小さく鳴く虫達の声。そして、視線。


……視線?


誰かが自分を見ているような気がする。そうユウギは感じた。…この城に誰か居るんだろうか。
先程自分が助かった訳も、そのきっかけとなってくれた言い伝えも、ユウギは分かっている。


それでも……。


何とか動けるようにまで回復した身体を起こし、ユウギは引き寄せられるように城の敷地内へと足を踏み入れた。
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