そんな愛なら要らない


「へぇ…面白いな、相棒。こんなに腫れ上がってきてるぜ?」
「そんな…言い方っ…!」
自分の心の部屋で、遊戯はベッドに横になり、辛そうに身を捩らせた。その上から彼の様子をさも可笑しそうに覗き込んでいる男が一人。遊戯の闇人格である《遊戯》だ。
《遊戯》は遊戯の身体に散らされた赤い跡を見つめては、くつくつと笑い声を漏らす。
「辛そうだな」
「他人事だと…思っ、て…!」
「そんな事ないぜ?」
「あっ、待って…! ソコ触っちゃ…ヤ、ダァ!!」
《遊戯》の手が肌を撫で上げ、遊戯は思わず悲鳴を上げた。目にはうっすらと涙まで浮かべている。
「ヤバイな…。そんな目されたら、ますます苛めたくなる」
「やぁっ! あ、んっ…!!」
真っ直ぐに自分を射抜く眼光から逃げるように、遊戯はずりずりと後ずさる。二人の間には少しだけ距離が空いたが、《遊戯》の耳には、荒いままの遊戯の呼吸が変わらずに届いた。
「はぁっ、はぁっ…」
「なぁ…辛いんだろ? いっそ自分で触ってみたら、キモチイイと思うぜ…」
囁くその声は、まるで悪魔の誘惑のようで。遊戯を甘く翻弄する。
「そんな事…出来ないよ…!」
「大丈夫…」
「あっ、あっ…ダメ! こんな事しちゃ…!!」
理性ではこんな事をするべきではないとちゃんと解っているのに、遊戯の指は己の赤く熟れた場所へと誘われるように辿り着く。
「あ! ぅ、あ…はっ、あぁっ…!」
爪でカリッと引っ掻く度に、全身に甘い痺れが走った。
「うぁ…止まんない、よぉっ…!」
「我慢するなよ。気持ちいいんだろう?」
「う…あ…っ! ボク、もうダメぇっ…! 気持ち、よすぎて…あっ、あ…! どうにかなっちゃうよぉ…!!」
涙ながらに遊戯は訴える。
「もう一人のボク、助け、て…! お願いぃ…っ!!」

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「あー!! もぅ! 酷い目に合ったよ!!」
「ククッ、災難だったな。相棒」
「笑い事じゃないー!」
怒りで顔を真っ赤にしながら、遊戯は服の裾を捲り、足と腕を露にする。そこは先程よりも真っ赤に腫れ上がっていた。
「愛されてる証拠じゃないか」
「蚊にね! 蚊に愛されたって嬉しくもなんともないだろっ。…あぁっ、痒い! ホントに痒い~!!」
「ほら、相棒。塗り薬」
「ありがとう…って、薬持ってたなら早く出してよー!! それに、大体掻いちゃいけないんだからね!? ほら~、毒が回って腫れちゃったじゃないか! せっかく我慢してたのに、君が煽るから!!」
「すまない。相棒が可愛くて、つい…な」
「ワケ分かんないッ!!」
パチン、と投げられたウインクにも感じた、うだるような暑さの夏の始まり。

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