ジグザグライン。
隣のクラスに、ボクと同姓同名の男の子が居るらしい。
…という噂は、高校に入学してまもなく遊戯の耳にも届いた。
眉目秀麗、成績優秀、おまけに愛想すらないものの性格もいいらしい…などとこんな嘘みたいな人物が自分の近くに存在するんだ、と遊戯は半ば違う世界の出来事のように聞いていた。
入学して数ヶ月が経った今でもそれは変わらず、武藤《遊戯》に関しての悪い話など遊戯は聞いた事がない。
隣のクラスというとても近い場所に居ながら未だ会った事もないその人物に、遊戯はただただ感心していた。
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「武藤くん、好きです。付き合って下さい…!」
(わわっ、告白だ…!)
昼休み、飲み物を買う為に校内の自動販売機に向かっていた遊戯の耳に飛び込んできたのは、勇気を振り絞って自分の想いを相手に伝える女子生徒の声だった。
中庭へと繋がる廊下に居た遊戯は、思わず自分と同じ名字に反応して顔を向けてしまったが、中庭に立つ女子生徒と呼び出されたであろう男子生徒の姿を認めると、慌てて身を隠す。
何となく、当事者ではない自分がまじまじと見ていい場ではないと思っての行動だったのだが、やはり少し気になってそろそろと様子を窺ってみてしまった。
…一階に居るって事は、高い確率でボクと同じ一年生だよね。
ボク、告白なんてした事もないし、された事もないや。二人とも何だか凄い!なんて思っちゃうボクは、やっぱりちょっと子供っぽいのかなぁ…。
…それよりあの女の子、さっき『武藤くん』って呼んでた。武藤なんてそんなに珍しい名字じゃないけど、一年生で武藤っていう人はそんなに居なかった気がする。
もしかしてあの男の子…?
自分と同姓同名の武藤《遊戯》なのではないか、と遊戯の視線は男子生徒の方へと強く向けられた。
「……わぁ」
自然と溜息に近い声が漏れる。
ピシッと伸びた背筋に、威厳すら漂う立ち姿。相手の気持ちを受け、そして見つめ返す切れ長な目と、その瞳の中の燃えるような紅。
…凄くカッコイイ人だ。
同じ武藤でも、ボクとは何もかもが違うんだなぁ。
こんな人が告白されるのは当然で、上手く行ってしまうだろう、とも当然のように思った。相手の女子生徒の事も遊戯は知らなかったが、とても可愛い女の子だという事はこの位置からでも分かる。だが…
「すまない。好きな奴が居るんだ」
思ってもみなかった男子生徒の返事に、遊戯は心の中で『えぇぇぇぇええ!?』と盛大に叫んだ。
あんなに可愛い子の告白を断っちゃうんだ…。しかもあんなにはっきりと好きな奴が居る、って言っちゃうなんて、その人の事よっぽど好きなんだろうなぁ…。
「よぉ、《遊戯》! 終わったかぁ?」
「!」
不意に響いた大きな声に場を支配されて、遊戯の思考はそこで途切れた。気付けば女子生徒の姿はもう見えなくなっており、代わりに男子生徒の友人らしき人物が現れている。
「城之内くん、見ていたのか」
「見てたんじゃなくて見えちまったの。あーあー、モテる奴は違うねぇー」
「そんな事はないぜ」
「ハイハイ。つーかこれも聞いてたんじゃなくて聞こえてたんだけどよ、お前また『好きな奴が居るから』って断ったろ。おめーに好きな奴が居たなんてオレ聞いてねぇけど?」
「! その……」
「それとも告ってきた奴断る為の嘘か?」
「いや…。……」
「……。何か変な事聞いたな、悪ィ! 《遊戯》はそんな嘘吐ける程器用じゃねぇか。ま、言いたくなったらでいいから言ってくれよ」
「…ありがとう、城之内くん」
「何の礼だよ、何もしてねーだろ? じゃぁオレ、先に教室戻ってっから」
「ああ」
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