傍観者の気まぐれ
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昼食を摂る為に屋上に向かうと、そこには既に《遊戯》の姿があり、城之内の姿を見てはほんの少し表情を和らげた。
「待たせたか?」
「いや。…武藤は?」
「購買。先に食っててくれていいってよ」
「ははっ、あいつらしいな」
今、この場には居ない遊戯の姿を思い描いたのだろう。吹き出した《遊戯》の方へと近づきながら、城之内は少し不思議に思う。
数日前、初めて顔を合わせた二人の遊戯であるが、その日から親友である《遊戯》の表情に少しずつ変化が表れてきている。
穏やかに笑うようになったな、と城之内は感じていた。
最初に顔を合わせた時、明らかに赤くなった《遊戯》の顔。あれはきっと、数年間一緒に過ごしてきた自分にしか分からないものだっただろう。しかしそれも一瞬の事で、気付いた時には普段と同じ表情で、"よろしく"と遊戯に手を差し出していた。相手の遊戯はというと、控え目な声で挨拶を返しながら照れたようにその手を取る。その様子に《遊戯》はほんの少し目を細めて笑っていたのだった。
それから数日、二人の遊戯は城之内を通して三人で行動する事が増えたが、気付けば《遊戯》は遊戯をよく見つめている。
「…城之内くん。オレに何か聞きたい事でもあるのか?」
「へ? あー。うーん…」
近頃、自分もよく《遊戯》を見ているとは思う。しかしそれは、恐らく《遊戯》が遊戯に対して抱いているような感情からではなく、ただ単に表情豊かになってきた親友が面白いからだ。
「聞きたい事っつーよりは気になってた事なんだけどよ。…お前らってさ、どっかで会った事あんの?」
何となくそうなのではないのかと、城之内は一人で昼食を開始しながら聞いてみた。《遊戯》の遊戯を見つめる瞳には、どこか昔を懐かしむような所がある。
「…驚いたな。表に出してたつもりはなかったんだが…」
少し強い風に揺れた前髪を押さえながら、《遊戯》は目を丸くした。律儀な事に、昼食には手を付けずに遊戯を待つつもりらしい。
「ま、何となくだよ。あいつに初めて会った時も、お前の挨拶とか『始めまして』じゃなかったしな」
「城之内くんには、オレが『始めまして』なんて挨拶するヤツに見えるのか?」
くつくつと笑う《遊戯》に、城之内は"そういや、そーか"と肩を竦めてみせた。
「城之内くんの言う通り、オレと相棒は初対面じゃない」
「…相棒?」
聞き慣れない言葉に首を傾げる。自分の記憶では、《遊戯》は遊戯の事をずっと武藤と呼んでいた。
「昔、小さい頃にあいつと家が近くてな。仲が良かったんだ。お互いに同じ名前だからそれが嬉しくて、特別な存在だった。だからオレは相棒、あいつはオレの事を"もう一人のボク" なんて呼んでた」
「へぇ~。今もそう呼べばいいじゃねーか」
「昔の話だぜ? 小学二年…あたりであいつが転校してそれっきりだ。いくら仲が良かったと言っても手紙のやり取りをしてた訳じゃないし、武藤ももうオレの事なんて覚えてないだろう」
「でもお前は覚えてたんだろ?」
「そうだな。忘れた事が無かった」
「初恋の人、ってヤツ?」
「…敵わないな、君には……」
困ったように笑いながら、《遊戯》は続ける。
「オレも君のような性格で居られたなら、武藤とももっと自然に接する事が出来るんだろうな」
「ぶはっ! お前、オレになりてーの? ヤメとけ、ヤメとけ。得な事なんて何もねーぞ?」
「そう思ってるのは城之内くんだけさ。オレは君が羨ましい」
「何だよ、改まってそんな事言うの禁止ー。《遊戯》のそんな過去を何も知らなかったのに、お前の親友を気取ってた自分が恥ずかしくてちょっと傷付いてたんだぜー? 褒められちまったら責める事も出来ねぇじゃん」
「ははは、すまない」
ゲラゲラと笑い合う声が、風に飲まれて空へと消えて行く。
「あれ、二人とも楽しそうだね。ボクも混ぜてよー」
屋上の扉を開けて城之内達を目にした遊戯が、足早に二人の元へと向かう。
《遊戯》と目が合って笑いかけてきた遊戯に、嬉しそうに《遊戯》も目を細めた。
昼食を摂る為に屋上に向かうと、そこには既に《遊戯》の姿があり、城之内の姿を見てはほんの少し表情を和らげた。
「待たせたか?」
「いや。…武藤は?」
「購買。先に食っててくれていいってよ」
「ははっ、あいつらしいな」
今、この場には居ない遊戯の姿を思い描いたのだろう。吹き出した《遊戯》の方へと近づきながら、城之内は少し不思議に思う。
数日前、初めて顔を合わせた二人の遊戯であるが、その日から親友である《遊戯》の表情に少しずつ変化が表れてきている。
穏やかに笑うようになったな、と城之内は感じていた。
最初に顔を合わせた時、明らかに赤くなった《遊戯》の顔。あれはきっと、数年間一緒に過ごしてきた自分にしか分からないものだっただろう。しかしそれも一瞬の事で、気付いた時には普段と同じ表情で、"よろしく"と遊戯に手を差し出していた。相手の遊戯はというと、控え目な声で挨拶を返しながら照れたようにその手を取る。その様子に《遊戯》はほんの少し目を細めて笑っていたのだった。
それから数日、二人の遊戯は城之内を通して三人で行動する事が増えたが、気付けば《遊戯》は遊戯をよく見つめている。
「…城之内くん。オレに何か聞きたい事でもあるのか?」
「へ? あー。うーん…」
近頃、自分もよく《遊戯》を見ているとは思う。しかしそれは、恐らく《遊戯》が遊戯に対して抱いているような感情からではなく、ただ単に表情豊かになってきた親友が面白いからだ。
「聞きたい事っつーよりは気になってた事なんだけどよ。…お前らってさ、どっかで会った事あんの?」
何となくそうなのではないのかと、城之内は一人で昼食を開始しながら聞いてみた。《遊戯》の遊戯を見つめる瞳には、どこか昔を懐かしむような所がある。
「…驚いたな。表に出してたつもりはなかったんだが…」
少し強い風に揺れた前髪を押さえながら、《遊戯》は目を丸くした。律儀な事に、昼食には手を付けずに遊戯を待つつもりらしい。
「ま、何となくだよ。あいつに初めて会った時も、お前の挨拶とか『始めまして』じゃなかったしな」
「城之内くんには、オレが『始めまして』なんて挨拶するヤツに見えるのか?」
くつくつと笑う《遊戯》に、城之内は"そういや、そーか"と肩を竦めてみせた。
「城之内くんの言う通り、オレと相棒は初対面じゃない」
「…相棒?」
聞き慣れない言葉に首を傾げる。自分の記憶では、《遊戯》は遊戯の事をずっと武藤と呼んでいた。
「昔、小さい頃にあいつと家が近くてな。仲が良かったんだ。お互いに同じ名前だからそれが嬉しくて、特別な存在だった。だからオレは相棒、あいつはオレの事を"もう一人のボク" なんて呼んでた」
「へぇ~。今もそう呼べばいいじゃねーか」
「昔の話だぜ? 小学二年…あたりであいつが転校してそれっきりだ。いくら仲が良かったと言っても手紙のやり取りをしてた訳じゃないし、武藤ももうオレの事なんて覚えてないだろう」
「でもお前は覚えてたんだろ?」
「そうだな。忘れた事が無かった」
「初恋の人、ってヤツ?」
「…敵わないな、君には……」
困ったように笑いながら、《遊戯》は続ける。
「オレも君のような性格で居られたなら、武藤とももっと自然に接する事が出来るんだろうな」
「ぶはっ! お前、オレになりてーの? ヤメとけ、ヤメとけ。得な事なんて何もねーぞ?」
「そう思ってるのは城之内くんだけさ。オレは君が羨ましい」
「何だよ、改まってそんな事言うの禁止ー。《遊戯》のそんな過去を何も知らなかったのに、お前の親友を気取ってた自分が恥ずかしくてちょっと傷付いてたんだぜー? 褒められちまったら責める事も出来ねぇじゃん」
「ははは、すまない」
ゲラゲラと笑い合う声が、風に飲まれて空へと消えて行く。
「あれ、二人とも楽しそうだね。ボクも混ぜてよー」
屋上の扉を開けて城之内達を目にした遊戯が、足早に二人の元へと向かう。
《遊戯》と目が合って笑いかけてきた遊戯に、嬉しそうに《遊戯》も目を細めた。